1.

8/15
前へ
/38ページ
次へ
夜半。 屋敷の皆が寝静まった頃、アレックスは再び隠し通路に足を踏み入れていた。 予想していた通り、隠し通路と繋がっている暖炉がある部屋はもぬけの殻であった。 初めてここを訪れた時は、あまりに受けた衝撃が強すぎてどうやって屋敷まで戻ったか覚えていなかった。が、暖炉から下に続く入口に縄梯子が掛かっていたのを見つけて、きっと自分はこれを使って戻ったのだろうと思った。 月明かりを受けてきらきらと光る回廊を抜けた先で俄に声がした。 「アレックス・コストナー。男爵家の養子。慈善家である男爵が孤児院から引き取り、コストナー家の養子とした。しかしその実、本当の母親は男爵家で働いていたメイドであり、醜聞を恐れた男爵が妾腹の子どもの出自を隠したとされる」 ヘーゼルが昨夜と同じ場所に立ってアレックスを迎えた。 「こんばんは、アレックス先生。ぼくが渡したお手紙、先生のことよく調べられていたでしょ?」 アレックスが来ることを予想していたのか驚く様子もない。 「ひとのバックボーンを勝手に探るのは良くないことだと学びませんでしたか?」 「先生には言われたくないなぁ。先生だって、ぼくのことを探っていたよね?」 でも成果はあまりないみたいだけど、と愛らしい笑顔で言われる。嫌味だ。事実なだけに言い返すことができない。 ヘーゼルのことを探っていたのは流石にバレていたか。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加