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「ねえ先生にぼくのことを探らせるよう言ったのは誰? あの教会のシスターかな」
アレックスがヘーゼルのことを探っていることをヘーゼル本人が悟ってしまったのは失態だが、指示役が誰であるかまでは知られるわけにはいかない。
「そんなことより」とヘーゼルの問いを振り切り、懐から取り出した紙を突きつける。そこには、先ほどヘーゼルが諳んじていたアレックスの素性が事細かに書かれている。ヘーゼルがシンプソン家の名を使いその筋の者に調べさせた調査書だ。だが、手に持つ紙片はヘーゼルが書き写したもので原紙ではない。
「この元の手紙は」
「大切に仕舞ってあるよ」
「どこにある」
にこりと笑うだけでヘーゼルは答えない。
「手紙の内容を知っているのも、手紙を仕舞い込んだ場所を知っているのもぼくだけ。先生がどんな出自だろうと構わないよ。ぼくはね。でも、お父さんはどう思うかなあ…。だって貴族は家柄を何より重んじるから」
「な…、俺を脅すつもりか」
「まさか、尊敬する先生だもん。これはお願いだよ。ああでも、手紙のこと、我慢できなくなってその内誰かに話しちゃうかも…」
「…何が望みなんだ」
「先生は話が早くて助かるなぁ」
浮かべていた笑みを消し、ヘーゼルが告げた。
「ぼくの家庭教師を辞めて、此処の土地から出ていって」
ヘーゼルが壁際からアレックスのもとに近付き、厳しい表情を浮かべる大人に動じることもなくにっこりと笑ってみせた。
「難しい話じゃないよね。お勉強を教えてくれる賢い先生だもん。これからどうするのが一番良いか、わかるよね?」
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