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「おかえりなさい、アレックス先生」
やや呆けていたアレックスが幼い子どもの声に「あ、いえ、お待たせしましたね」と我に返る。
続いて幼気な指が机の上を差した。
「課題、終わりました」
「えっ、もうですか」
少し席を外すことになったので多めに課題を与えていたのだが、それが終わったらしい。
勉強机に歩み寄り、広げられたノートを覗き込む。先ほど机を指差した幼い手が書いたとは思えない綺麗な文字が並んだ頁に驚き、基礎応用ともに本当にすべて解かれていることに再度驚いた。随分と早い。
彼に与えたのは算数の問題だ。単純な掛け算、割り算問題を中心に、応用として桁が多く繰り上げのあるものや、小数点以下の計算問題も加えておいた。多目に与えていたことに加え、応用問題の中にはまだ教えていないものもあった。
その全てが回答されていることに驚いて二の句が告げずにいれば、キイとホイールの音が近付く。
「でも間違っているところもあるかもしれないから…」
少年の高い声に「あ…、ああ」と予期せず安堵するような声が漏れた。
「少し難しい問題も入れましたからね。一緒に答え合わせをしましょう」
教材とノートを取り上げる。勉強を教える時に使用する大きめの机に向かうため、一声掛けてヘーゼルの車椅子を押す。さすが貴族の嫡子のための車椅子は毛足の長い絨毯の上ですらすべらかに動く。
「それにしてもすべて解かれるなんて、ヘーゼル様はお勉強熱心なんですね」
動揺してしまったのを隠すようにあえて明るく褒める。少年は「そんなことないよ」と気恥ずかしそうに俯き、くん、と傍らをぴったりと付いている犬が鼻を鳴らした。
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