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「こんばんは」 ハッと顔を上げる。 途端、視界に茶金の髪が揺れるのが映った。 「ごきげんよう、アレックス」 にっこりと微笑んでアレックスを出迎えたのは小さな女の子だった。 あめ色の大きな瞳が印象的な人形のような可愛らしい顔をしている。 ドレスの裾を持ち上げ、淑女のように挨拶をする彼女にアレックスは見覚えがあった。 「きみは…」 前に屋敷で見かけた事がある。 あれは確か、窓から夜の屋敷の庭園を歩いているヘーゼルらしき姿(今となっては、あれはヘーゼルに違いないと確信しているが)を見付ける直前のことだ。 つい追い掛けてしまったが、結局見失ってしまったのだ。その後に起こしたヘーゼルの姿を夜の庭に見た、という騒動ですっかり有耶無耶になっていた。 改めて少女を見遣る。 長い亜麻色の髪。 裾が広がった黒いドレス。 あの時は遠目に見ただけだったが、間違いない。あの少女だ。 アレックスは少女に近付いてしゃがみ込む。目線を合わせた。 「この屋敷で働いているひとの娘さんかい? こんな夜中にうろついていちゃいけないよ。はやくお部屋に戻りなさい」 「まぁ、アレックスは紳士なのね」 「そう、俺は紳士だからよかったけれど、君のような女の子が夜中に男のひとの部屋にひとりで入るのもいけないよ」 「なら、男のひとが男の子の部屋に勝手に入るのは良いのかしら?」
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