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思わず固まる。心当たりはひとつしかない。 「…何のことかな」 「あら、あなたのご主人様のことを忘れちゃったの? 悪い飼い犬ね、アレックス」 間違いない。少女はヘーゼルの部屋に忍び込んだことを言っている。 どうしてそれを少女が知っている。 まさか、見られていたのか。 平静を装うアレックスを楽しげに見て、ドレスの裾を翻して少女がベッドに腰掛ける。小さな身体がベッドに座ると、スプリングに弾かれ簡単に身体が跳ね上がった。 「隠し通路の入口はいくつかあるけれど、あの部屋の隠し通路はまだわかりやすいのに随分苦戦しているからやきもきしちゃったわ」 思わず「あ」と声が漏れる。ヘーゼルの部屋で、隠し通路に繋がっていた暖炉の内部を覗き込んでいた時、無防備になっていた背中を思い切り突き飛ばされて隠し通路に転がり落ちた。 背後からは確かに子どもの笑い声が聞こえた。 あれは。 「あの時、後ろから押してきたのは君か…!」 今度こそ少女は声を立てて笑った。 「だってあんまり困っているから。わざわざわたしが手伝ってあげたのよ? 感謝してほしいくらいだわ」 「…あの時はどうもありがとう。おかげで俺は立派なアザをこさえたよ」 しらばっくれるのは辞め、アレックスは大仰にため息をついた。白々しく惚けたとしても、どうせ目の前の少女にはすべてバレているような気がするのだ。
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