黒王子に不可能はないらしい

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 そして、辞めるための口実に唯一思いつく事は、私の働く部署は総務部人事課だということ。  実家が旅館業をしているというだけの理由でこの憧れの会社に入ったものの、私の学歴やスキルでは総務部が関の山。  本当はホテルのフロントでお客様相手の仕事がしたかったけれど、現実はパソコン相手の事務作業がほとんどだった。  もっと英語や中国語を頑張っていればよかったなんて、今になって後悔している。  それに、リゾート開発に関わる仕事とか、ホテルに携わる仕事とか、ましてや海外出張とか、そんな事には縁のない職場、それが人事課だった。  ここらあたりで見切りをつけるのもいいのかもしれない…  私は、部長に切羽詰まった事情を話した。 「承知しました…  そういう事情ならしょうがないか。  規定に沿った退職願いを持ってくれば、その日に上へ回すから。  でも、退職願いを出したからって、明日には辞めれるってわけにはいかない。今、二月の後半だから、多分、三月いっぱいは居てもらう形になると思うけど、それで大丈夫?」  私は大きく頷いた。  大丈夫ですと、感謝の気持ちを込めて。
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