黒王子に不可能はないらしい

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 翌日、私は退職願いを部長へ出した。  完全に受理されるのは二日後だと思うと言われ、それまではまだ会社の人間には黙っていてほしいと言われた。  私は自分のデスクに戻ると、このフロアから見える外の景色を改めて眺めてみる。  超高層ビルの48階から50階のフロアが、このカミルリゾート本社の持ち物だ。  事務作業が嫌だなんてそう思い込もうとしているけれど、本当は、フリーなスタイルの最先端をいくこの会社で働ける幸せをいつも噛みしめていた。  私なんかがこんな素敵な会社に就職できた事が、今でも信じられない。  そう、正直な気持ちは、まだこの会社を辞めたくなかった。  でも、東京の街が一望できるこの景色も、もうすぐ見納めになってしまう。 「ほとり、今日のランチはイタリアンにしない?」  同期で同じ人事課に勤務する私の親友、高橋みち子。通称、みっちゃん。 「いいね~ それと私、みっちゃんに大事な話があるんだ…」  みっちゃんにだけには、すぐに話したい。  私が寂しいように、みっちゃんだってきっと寂しがるはずだから。  だから、誰よりも早くに話しておきたい。
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