万叶神社の願届人~神様に願いをお届けします~

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 むかしむかし、ある小さな村の山の手に、万叶(まんよう)神社という美しい神社がありました。  境内の裏には澄んだ池があり、万叶池(まんよういけ)と呼ばれ、そこには村の守り神である万叶神(まんようしん)が住んでいるといわれています。  万叶池の奥底に住む神様は、自らに願いを届けるために、巫女が身を投げ命を落としたことを深く嘆き、それ以来、人々の願いを叶えてくれたといいます。  日照りが続けば雨を降らし、大雨が続けば日を照らす。大地が揺れればそれを沈め、大火の恐怖からも村を守ってくれました。そうして、小さな村は潤ってゆき、人々は幸せに暮らしていたのです。  しかし、年月が経つにつれ、人々の信仰心は少しずつ薄れ、万叶神のことを忘れていきました。  万叶神は、そんな人々を恨むことはありませんでしたが、願いを届けに来る人間もいなくなり、いつしか願いを叶えることを止めてしまいました──。  これは、とある町に伝わる昔話。  万叶神社は現存しているが、万叶池は今ではただの土と化していた。注連(しめ)縄が張られているので、「あった」という事実だけは残っている。  池ではなくなった万叶池。そこにまだ神は住んでいるのか。  ──今となっては、誰も知らない。
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