願届人の初仕事

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 ***  次の日、再び万叶神に会いに行くために、鈴音と志貴は神社の鳥居の前で待ち合わせていた。そして、時間どおりにやって来た志貴とともに、万叶池に向かっている。  またビショビショになってしまうことはわかっているが、神の前でラフな格好も変だということで、やはり巫女の衣装を纏っている。こう考えると、志貴はどんな格好をしていても神使の姿になれば関係ない。少し羨ましくなる鈴音だった。 「志貴センパイ、抱っこしましょうか」  ヒョコヒョコと歩く志貴に向かって声をかけると、志貴は大丈夫だよ、と笑う。見た目は可愛いが、大変そうでもある。なので、鈴音は志貴の言葉を無視して、ヒョイと志貴を抱き上げた。 「す、鈴音ちゃんっ」 「だって、なんだか大変そうなんですもん。ま、私が抱っこしたいっていうのもあるので、じっとしててください」  鈴音はそう言って、志貴の羽に頬ずりする。すっかりこれが気に入ってしまったようだ。志貴も諦めたようにじっとしている。  そんな志貴を見て、不思議な人だなぁと、鈴音はつくづく思った。  霊感が強いのはさておき、いきなり池に落っこち(本当は万叶神に引き寄せられたのだが)、神様と対峙し、訳のわからないまま願届人にされてしまった。神使である鴨の姿にもされて、だ。  普通なら大パニックを起こすところだろうが、志貴はそれを飄々と受け止め、万叶神社のために協力することを申し出た。 「順応性が異常だ……」 「ん? 何か言った?」 「いえ、なんでも」  思わず声に出てしまい、鈴音は慌てて誤魔化す。  そして、一番の不思議はこれだ。いくら鴨の姿とはいえ、後輩、しかも異性の、の腕に抱かれているというのに、普通だ。ビックリしてしまうほど普通。  これが志貴以外の男性だったとしたら、嫌がるのではないだろうか。恥ずかしいのはもちろん、プライドもあるだろう。しかし志貴は、嫌がるでもなく、甘えるでもなく、淡々として鈴音の腕の中でおとなしくしている。
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