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「お前たち、何をしとるんじゃ。まだ来んかと思って見にきてみたら」
「あ、はいはい。今から行きます~」
鈴音がそそくさと立ち去ろうとすると、巫女装束の長い袖をクイと掴まれる。
「楓ちゃん?」
「……鳥さんにもう一回触ってもいい?」
よほど志貴を気に入ったらしい。正確には、志貴ではなく、鴨にだが。
鈴音はクスッと笑い、もう一度しゃがんだ。
「いいよ。はい、どうぞ」
「ありがとう!」
そう言って、楓は何度も何度も志貴の背を嬉しそうに撫でる。志貴も甘えるように、楓の腕に嘴をすりすりとすり寄せた。
「わぁ! 鳥さん、嬉しいんだ! 可愛い!」
「あはははは……」
志貴、大サービスである。鈴音は心の中で、悶え狂う自分と戦っていた。
私にもやって! すりすり、やって!! 私にもサービスしてくださいっ、志貴センパイっっ!!
楓がいなければ、大声で叫んでいるところだ。しかし、楓がいなければ、こんな志貴は拝めなかっただろう。
「楓ちゃん、ごめんね。お姉ちゃんと鳥さんは、これからちょっとご用があるんだ。だから、もう行くね」
「うん、わかった。でも、また鳥さんに会いに来てもいい?」
いや、神社にいつも志貴がいるわけではない。
どう答えようかと考えていると、正義が助け舟を出した。
「楓ちゃん、この鳥は神様のお使いなんじゃ。だから、いつもいるわけじゃないんじゃよ。すまんの」
「……神様のお使い!?」
途端に、楓の瞳がキラキラと輝きだす。楓は志貴を穴があくかというほどじっと見つめ、その後、手を合わせて言った。
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