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「あはははは、鳥さん、可愛い。鳥さん……あ、シキセンパイ、ありがと。シキセンパイ、可愛い!」
「鈴音、志貴を知っている人間が聞くと、おかしく思うぞ」
正義が小声で囁く。確かにそうだ。鈴音がいつも志貴のことを「志貴センパイ」と呼んでいるのを知っている人間は多い。神使の鴨が「シキセンパイ」という名前だと何かの拍子に知れてしまえば、面倒なことになる。
鈴音は慌てて楓に言った。
「かっ、楓ちゃん! この鳥さんはね、神様のお使いなの。それでね、本当はお名前、言っちゃいけなかったんだけど、お姉ちゃん、うっかり言っちゃった。だからね……皆には内緒にしてもらえないかな?」
果たして、小さな子どもがどれだけ内緒にしていられるものか。そうは思えど、もうこうしてお願いするしかない。
楓はうーん、と少し考え、コクンと頷く。
「うん、わかった。神様のお使いだもんね。楓も神様にお願いしてるんだから、神様のお願い、楓もちゃんと聞く。絶対に言わないっ」
「ほんと? よかったぁ! ありがとう、楓ちゃん!」
「うん! 楓、誰にも言わない! マナちゃんにもユアちゃんにもマー君にもレン君にもぜーーーったい言わないっ」
「ありがとう!」
楓には叶えてほしい願いがある。そのために、絶対に秘密にすると言い、おそらくそれを守るだろう。幼いながらも、この子は物事の良し悪しがわかっているし、約束は守る、そんな気がした。
「お姉ちゃんとシキセンパイ、神様に会いに行くの?」
ポツンと言った楓の言葉にギクリとする。本当のことだから、驚かざるをえない。
「そうじゃな。巫女と神の使いが一緒におるんじゃ」
「そうだよね! じゃあ、楓のお願い、神様に絶対伝えてね!」
鈴音は楓に笑顔を向けた。
「うん、任せて!」
「ありがとう、巫女のお姉ちゃん、シキセンパイ!」
鈴音と志貴の姿が小さくなるまで手を振り続ける楓を見て、鈴音は大きく息を吐き出す。
「ほんと偶々だけど、楓ちゃんの願いを届けることになっててよかった……」
そうでなければ、嘘をつかなければいけない羽目になっていた。しかし──。
「万叶神様には、この願い、何が何でも叶えてもらわなきゃね」
「はい」
絶対に願いを叶える、というプレッシャーは、大いにのしかかるのであった。
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