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一時間ほど経った頃、一旦家に戻っていた志貴が着替えなどの荷物を持って、神社に戻ってきた。
「志貴センパイ、本当にいいんですか?」
心配そうな顔で尋ねてくる鈴音に、志貴は何でもないといったように笑う。
「いいよ。僕は普通に泳げるし、飛び込むだけなら全然。水も綺麗だし、抵抗はないよ。でも、本当に飛び込めるかは謎だよね」
そうなのだ。見えているからといって、また水に入れるかはわからない。
「そこはまぁ、万叶神次第といったところじゃな。ただ、万叶神が志貴を願届人として認識しておるなら、受け入れるじゃろ」
「……そうですね」
三人は、再び万叶池のほとりにやって来た。水面はシンと静まり返っており、波紋一つない。まるで鏡のように、周りの景色が映りこんでいた。
「綺麗だね」
しみじみとした志貴の声に、鈴音が何度も頷く。
この美しさを誰かと共有したい、ずっとそう思っていたのだ。その夢が思いがけなく叶い、嬉しくてたまらなかった。
「もしまた万叶神会えたとしても、僕の説得で納得してくれるかは正直わからない。でも、できるだけ頑張るよ」
「ありがとうございます!」
鈴音としては、全てを志貴に託すしかない。だから、どういう結果になろうが、それを受け入れるつもりでいた。
ただ、志貴にとっては少し厄介な状況だ。
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