願届人の初仕事

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 ***  志貴にドロップキックで万叶池に突き落とされた後、鈴音はパニックになりながらも志貴を伴い、万叶神に導かれるように、池底にある祠まで辿り着いた。  万叶神の言うとおり、水の中にいるというのに地上と何ら変わりはない。息もできるし、普通に動け、話までできる。 『水の中の世界って……こんなに幻想的で、美しいものだったんですね。テレビとかでは見たことあったけど、実際に自分の目で見られるとは思いませんでした』  見るもの全てが珍しく、鈴音の心をいちいち感動させた。祠の中にも入ることを許され、志貴同様に祠の装飾や、中の調度品を褒めちぎる。決してお世辞などではない心からの言葉に、万叶神も気をよくしたようだった。  地上に帰る頃には、これまで絶対に拭えなかった水への恐怖心が、嘘のようになくなっている。鈴音は、それが自分でも信じられなかった。 『地上に戻った途端、また怖くなるってことはないですよね……?』 『それはお前次第だ。だが、水の中にあれほど感動していたのだ。大丈夫だろう』  それもそうだと思った。この感動が胸にあれば、もう怖いだなんて思うはずがない。
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