願届人の初仕事

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 その後、二人は正義の用意した夕食を食べ、願い事を書く紙の準備を始めた。  鈴音がデザインをし、印刷する。志貴が、印刷された用紙をカッターで切っていく。願い事の用紙は、A4用紙に六分割されていたからだ。多めに作っておくため、後半は鈴音も一緒になって作業をした。  そして、ホームページやSNSで、万叶神社の願届人の復活と、願いを受け付ける旨を、全世界の人々に公開した。するとたちまちその情報は拡散され、万叶神社に人が集まった、というわけだ。  町の人間が大多数だろうが、たぶん、他からも来ている。そうでないと、あの人数にはならないだろうと思われた。 「しかし、予想していたとはいえ、万叶神様に届けられるような願い事がなかなか見つからんの」  願い事が書かれた用紙を一枚ずつ確認していた正義が、ハァと大きな溜息をつきながら言った。鈴音と志貴も確認しているが、同感だ。 「宝くじが当たりますように、難関校に合格できますように、結婚できますように、一流企業に就職できますように……まぁ、そうなるよね」  鈴音はそういった願い事を、端に避けていく。個人的すぎる願いは、万叶神には届けられない。ただし、絵馬などと同じように奉納はするのだが。 「あ、これは鈴音ちゃんが水に入れるようになったっていうのを受けてかな? 泳げるようになりたい、だって。字からすると、きっと小さい子だよね」  志貴が持っている用紙を、鈴音が覗き込む。子供らしい文字で書かれた願い事を見て、鈴音は共感してしまう。名前と年齢を確認すると、やはり10歳の子どもだった。 「わかる! 私もずっとそう思ってたっ!」 「じゃが、この子の場合は努力で何とかなるじゃろう。お前のように酷いトラウマがあるのなら、それを取り除いてやりたいがのぅ」 「そうだね……」
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