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鈴音は、ひととおり全ての願いに目を通した。そして、今鈴音の手には、二枚の紙がある。
「鈴音、どんな願いか見せてみい」
正義がそう急かすので、鈴音は正義と志貴にも見えるように紙を床に置いた。
“おかあさんがかえってきますように”
“母の病気を治してください”
二枚の紙には、それぞれそう書かれていた。どちらも母親に関する願い事だが、願った人物は子どもに女性だ。
母の帰りを願うのは、こばやしかえで・7歳、母の治癒を願うのは、三枝真紀・35歳。
「こばやしかえで……あぁ、小林さん家の楓ちゃんか」
「おじいちゃん、知ってるの?」
正義が鈴音の言葉に頷く。
「ワシがやっとるパソコン講座に栄子さんという、楓ちゃんのおばあさんが来とった」
「そうなんだ。で、楓ちゃんのお母さん、どこかに行ってるの? もしかして、入院してるとか?」
母親が病気か何かで入院し、戻りを待っているのか、それとも、仕事の都合で離れて暮らしているのか。
鈴音はそんな理由を思い浮かべながら聞いたのだが、正義が珍しく表情を曇らせた。
「宮司さん?」
志貴が心配そうに正義の顔を見つめる。鈴音も、何か悪いことでも聞いてしまったのかと気まずい顔をしていた。
正義は目元を和らげ、片手ずつをそれぞれの頭に乗せる。
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