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「あ、いやっ、その、違いますよ? 僕はナンパじゃなくて……」
その慌てた様子がおかしくて、ハンカチで涙を拭いながらふふっと笑ってしまった。すると、男性は胸ポケットから何かを取りだした。
「そうだ、これ。僕の名刺です」
どこまでも真面目な人柄なんだなと、頬が緩んでいったところで、今度は私が目を見開いた。
[TSA株式会社 平野 晴太]
…………嘘。
「会社だって書いてあるし、僕は悪いことはできませんから。安心して飲みに行けますよ、どうでしょうか?……あの?」
「……はい、行きます」
あれはもう5年も前。晴太くんが最後に見たのは、メイクさんの魔法にかかった、花嫁の私。気づかなくても無理はない。私だって、分からなかった。
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