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黒縁メガネをしていないし、短めの黒髪は爽やかにスタイリングされている、あの頃のモサッとした感じはもう見当たらない。
心做しか表情まで自信が感じられる晴太くんは、立派な社会人の大人の男性になっていた。
5年間立ち止まりっぱなしだった自分が、恥ずかしくなる。
駅を出て、近くの居酒屋へ入った。
晴太くんはシステムエンジニアの仕事をしているらしく、上司の厳しさを受け入れ生き生きと話す姿は、とてもたくましく見えた。
「そういえば、お名前は?」
「あー……さちこです」
「……さちこさん、ですね」
晴太くんは微笑んでから、レモンサワーを飲み進めた。
さちこは、友達の名前だ。晴太くんが私の顔は覚えていなくても、名前くらいは記憶にあるかもしれないと思った。
あんな過去は思い出して欲しくなかった。それに、どちらにしろ今だけの呼び名なのだから。
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