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「またさちこさんと会えて嬉しいです。もうダメかなと思ってたから」
「えっと……ありがとう」
「今日はイタリアンはどうですか?」
「いいね」
それから私は、半年間、月に2回ほどのペースで晴太くんと会い続けた。
晴太くんは下心がある、なんて言っていたけれど、私は指1本触れられていない。そうしていつしか、いつも穏やかで気配りの丁寧な彼の隣にいることが、心地よくなってしまった。
でも、こんなぬるま湯に浸かった関係は、今日で終わりにすると決めてきた。
あの日再会したこの駅に入る前に。
人通りのまばらな夜の歩道で、私は足を止めた。
「さちこさん?」
「晴太くん、もう会うのはこれで最後にしましょう」
「……どうしてですか」
私の言葉で、いつも朗らかな晴太くんの表情がいっきに曇ったのが、通りすがる車のライトに照らされた。
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