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でも、1人取り残されてしまったと思っていた私は、そっと声をかけられた。
「すみません……兄が。あの」
低いけれど、透明感のある声だった。
茫然としていた目の焦点を合わせ部屋の壁際を見ると、そこには私より5歳年下の雪斗の弟、晴太が立っていた。気配が消されていたのか、もとより存在感が薄めだからか気が付かなかった。
顔合わせの時と今日、2回しか会った事がないけれど、第一印象は“地味”だった。
真面目の証のような黒縁眼鏡をかけた、成人したばかりの大学生。今日はスーツで身を包み、髪もセットしてあるからしゃんとして見えるけど、誰からもイケメンと呼ばれ明るく人気者の兄とはあまり似ていないと思う。
「申し訳ないです……」
「晴太くんが謝ることじゃないよ」
初めて名前を呼んで思い出した。雪斗と晴太。名前を聞いた時に、本人の放つ印象とは真逆だなと思ったものだった。
真面目そうなこの子の黒い瞳に、私はどれだけ惨めに映っているのだろう。
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