329人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「あのね、私、知ってたの。雪斗が前の彼女を忘れられてないこと。それでも付き合って欲しいって言ったのは私。それでも結婚して欲しいって言ったのも私。だから私が撒いた種なのよ」
もう、自嘲するしかなかった。
「それでも、付き合うのも、結婚も、決めたのは兄ですよね。それをこんなギリギリで投げ出すなんて、最低です」
控えめな印象だった晴太くんが顔を上げ、私の目を真っ直ぐに見て、はっきり言うものだから、少し驚いた。
「そうね」
この子の前じゃ泣けないと思うのに、ほんの少し、寄りかかりたくなった。
そこへせかせかと母が戻ってきた。そして、「私たちは先に帰りましょう」と言った。
晴太くんは、所在なさげに部屋から出ていき、私は着たばかりのウェディングドレスを褒められることも、お披露目することも無くあっけなく脱いだ。
それからどうなったのか私は聞かされなかったけど、確か見積もりで500万円を超えていた費用は、全て向こうが持ってくれたらしい。
最初のコメントを投稿しよう!