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と、思っていたのに。
「また、会えませんか? 下心はあります」
「え?」
帰り際、さりげなくお会計を済ませていてくれた晴太くんに私の分を払おうとしていると、晴太くんは私の顔を覗き込んで言った。いつも甘ったるい香りを付けていた雪斗とは真逆の、柑橘系のさっぱりした香りがした。
「その時に、今度はさちこさんが奢ってください。これ、僕の連絡先」
LINEがこんなにも普及している今、電話番号の書かれたメモを渡されることなんてあるんだ。
「嫌だったら、捨ててくださいね」
終電はもうなく、いつの間にか呼んでくれていたタクシーに押し込まれ、ひらひらと手を振って見送られた。
先回りしてくれる優しさに慣れていない私は、どんな反応をしたらいいか分からなかった。
メモをスケジュール帳にしまい、スマートフォンを開くと、『ケーキは明日の朝にしましょうね。ふふ。おやすみなさい』とどこか浮ついた母からのLINEが入っていた。
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