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僕の後ろにはナニかがいる。
僕は後ろから彼に見られている。
いつからだろうか、このことに気が付いたのは。
学生の頃だったか、それとも社会人になってからだろうか。
家で一人でテレビを見ているときに背中に誰かの気配を感じた。
振り向いてみる。でも、誰もいない。
気のせいかと思っていると、また誰かの気配を感じる。
こんな事がずっと続ていた。
そんなある日、誰もいないはずの家の中でかすかに、はっきりとしない声が背中から聞こえた。
「誰!?」
思わずガバっと後ろを振り向くいても…そこには普段と変わららない我が家があるだけだった。
でも、さっきは確かに背中から…。
そうだ、鏡!
手鏡を準備して、すぐに取れる位置に置いておく。
そして今度こそ視線、声がした瞬間にそれを取れば…。
「*******」
!
直ぐに鏡を手に取って背後を見る。
…やはり何もいない。でも、確かに声がはっきりと聞こえた。
僕の後ろにはナニかがいる。
いつからだろう、この存在を気にしなくなったのは。
いつも何かはっきりしない微かな声をかけてくるのだが、それ以外には何もしてこない。
僕も最初は気味悪がってはいたけど、何も害が無いのならと気にしないようになった。
この頃からだろうか、無性にお肉を食べるようになったのは。
毎日仕事で心身ともに疲れ果てて家に帰ってくると、決まって肉料理が食べたくなる。
牛、豚、鳥、何でもいい。とにかくお肉が食べたいんだ。
仕事の帰りに寄ったスーパーで、今日は牛肉を買ってきた。
とにかく焼いて食べる。食べる。ひたすらに食べ続ける。
「クスクスクス」
今日はなんだか背後にいるナニかの笑い声がはっきりと聞こえた気がした。
僕の後ろにはナニかがいる。
いつからだろうか、普通のお肉じゃ満足できなくなってしまったのは。
普段通っているスーパーのお肉で物足りなくなってしまった僕は色々なお肉を取り寄せた。
鹿、熊、猪、鰐、さらには蛙に蛇。試しに食用の昆虫なんかも取り寄せてみた。
とにかく肉だ。僕には肉が必要なんだ。
「君も、もうすぐウェンディゴになるんだ…」
僕の背後のナニかが意味の解らない事を言っているが、そんな事よりも肉を食べたいんだ。
気が付けば、生で肉を口に運んでいた。
僕の後ろにはナニかがいる。
やってしまった。もう後には引けない。
震える手を抑える。
僕はその手に握られた鋸で、それを解体していく。
あぁ、もうすぐだ。もうすぐ新鮮な肉を食べることが出来る。
やってしまった後悔よりも、食欲がそれを上回る。
「ようこそ、新しいバケモノさん」
もう僕の背後から声は聞こえない。
僕は後ろから彼を見ている。
彼は一人で家でテレビを見ている。急に振り返って僕の方を見るけど、見えてはいない。
不思議そうに首を傾げたのち、またテレビの続きを見始める。
さぁ、次は彼の番だ。
僕がゆっくりと、でも微かに聞こえるように声をかけると彼は…
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