大虎

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 数日後私は気になったことがあり、こっそり確認した。    母のお気に入りで一張羅でもあるバックスキンのコートは、いつの間にか綺麗になっている。  それは襟だけが艶やかなファーで覆われ、ウエストをベルトで結ぶと細身のシルエットになり、母によく似合っていた。  よかったぁと安堵した。  あの日、色んなもので汚れた黒いコート。  美しい母が『バケモノ』になって帰ってきた夜。  怒ると虎まではいかないが、よく吠える犬にはなっていた。  弟とヒヤヒヤしたけれども『バケモノ』でも母は母。  あの日はたまたま、化けてしまったのだ。ただそれだけのこと。  時々弟と思い出し笑いをしていたけれど、何事もなかったかのように年末を迎えた。  バケモノを覆う、毛物(獣)のコート。  暴れても着崩れすることも無かった黒いこのコートが、バケモノを一番封じこめたのかもしれない。      
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