愚者はアイを熾る

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愚者はアイを熾る

告げられる言葉。 与えられる金品。 私は目を細めて唇を三日月に。 「ありがとう」 少し高めの声音でそう紡げば、声が向かった先には一様の色欲が映る。 どんな言葉も宝飾も、私の心は満たされない。 求められる上辺だけの愛。 与えられる上辺だけの愛。 彼らはこぞって、空しいだけの愛を求めている。 とある物書きは、華やかな愛を書いた。 とある絵描きは、鮮やかな愛を描いた。 とある詩人は、甘く囁き愛を詠った。 満たされる美しき愛は世の中に溢れているというのに、私の心はいつまでも空虚な穴が開いたまま。 わき上がる程の熱情。 灼けるような慕情。 何故、私の中にそれは生まれないのだろう。 唐突に胸が痛みを訴えた。 咽喉を掻き毟りたくなるような息苦しさと、目の奥の熱。 一つ、二つと、頬を伝う滴。 なんという、焦燥。 愛がわからない。 愛なんて知らない。 世界にたった一人、取り残されたような錯覚。 (いと)しいほどの羨望。 私は身の内に潜んだ“アイ”だけを輝かせている。
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