第2話 12月16日

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第2話 12月16日

昼下がり、私は丁度ティータイムに友人と会っていた。 場所は待ち合わせにして、お喋りに花を咲かせてそのまま居ついてしまった駅構内にあるチェーンの喫茶店だ。 休日にかかる曜日というのもあってか、席が埋まって忙しなく回転しているように見えた。 ぬるくなったアイスコーヒーを一口、話の区切りに飲み下した。 「眼鏡をかけた黒髪で、顔立ちの綺麗な“羽黒さん”ですか?」 私の話を聞いていた彼女は頬に左手を当てる。 右手にはティーカップを持っているので、香る茶葉を楽しんでいるようにも見えた。 『Avalon』を紹介してくれた彼女は、勤めているスタッフにも詳しい。 華やかさを持った彼のことなら一発で伝わると思ったのだが、それが叶わない。 共通の話題としてネタにしたのだが、難しい顔をされてしまったので、少し困惑してしまった。 夢でも見ていたのだろうか。 確かに閉鎖的な空間で、日常とは切り離されたような空間ではあったが。 脳の片隅でとりとめもなく、くだらないことを考えてしまっていた。 「“羽黒さん”っていうお名前の方は浮かんでるし、確かにお綺麗な顔をされていた気がするんですけど、眼鏡掛けてたかしら…。私もあまりお話ししたことのない方だと思います」 「私は初対面なので、彼のことはよくわからないですけど、昨日たまたま掛けていただけなのかもしれませんねぇ…」 彼女が知らないのであれば、彼に対する話題は特にない。 早々にこの話題は終わりそうだ。 次の話題を考え始めたところに、彼女の言葉が重なった。 「でも、数回行っただけで話したこともない方に覚えられているなんて、やっぱり貴女、持ってますねぇ」 彼女は大袈裟なリアクションをして椅子の背凭れに重心を寄せると、まじまじと私の顔を眺めた。 反応に、少し困る。 本当に“たまたま”が重なっただけのことなのだ。 意図しているものではない以上、どうしようもない。 「…彼曰く、“楽しそうで華やかだった”らしいですよ」 「そんなこと言われるなんて、私達、やっぱり悪目立ちしちゃってたかしら?席も入口に近かったし、位置的にも目につきやすさがあったかもしれませんけど」 変わると思っていた話の種は、思ったより彼女の興味を引いたようだった。 妙に楽しそうに、身を乗り出して私に訊ねる。 「うっかりツボにはまることが多くて、大笑いしちゃってましたからねぇ」 思わず、苦笑が零れた。 先日、彼女とカフェに行ったとき、注文したものを音もなく現れて給仕するスタッフがいた。 オールバックで長身、眼鏡の奧は鋭い眼光。 制服の丈もきっちり美しく、綺麗に着こなす風貌の彼の印象は、堅物で怖い印象を持つ人間が多いのではないだろうか。 彼女は驚きながらも、突拍子もなく“忍者のようだ”と落としたのだが、そのときに意外にも彼が手裏剣を投げるような仕草をして話題に乗ってくれたのだ。 予想外の愛嬌に、彼女も私自身も魅せられてしまった。 そこからは直前に話していた内容も忘れ、彼の話題だった。 「だけど、お互いが思ってる人で合っているのか、答え合わせが出来ないままってスッキリしないですよねぇ。近々、“答え合わせ”をしに行きましょうよ」 「ええ、ご迷惑でなければ」 目を細めて頷けば、彼女は興奮したように手を顔の前で左右に振った。 「迷惑だなんてとんでもない!私は貴女のファンですから、こうやってお喋りするの、とっても楽しくて仕方ないんです!だから迷惑だなんてありえないですからね!」 「うふふ。それは光栄ですね」 仕事が切っ掛けで知り合った彼女は、プライベートで会うようになってからも、未だに“ファン”という言葉を遣う。 気の合う友人と思っているつもりではいる。 しかし、“ファン”というその言葉に一歩、線を引いてしまうし、線引きをされているような感覚になってしまうので、彼女にそう言われるのはあまり好きではない。 「あぁ、そうだ。話は変わるんですけど、私、行ってみたいなって思ったイベントがあったんです。お暇なら付き合って頂けません?」 手を合わせてパチンと音を鳴らした彼女は、自身の鞄から四つ折りにされたフライヤーを出して広げた。 どこから見付けてきたのか、フライヤーに書かれた内容はなかなかにマニアックだった。 彼女の感性を全て理解しているとは思わない。 ただ、それなりに好みの共通点が多いのは確かだ。 加えて、私は「好奇心」という感覚がどうも貪欲に生まれてしまっているらしい。 二つ返事で承諾した。 「じゃあ、次のお休みはココの後にお茶しに行きましょうよ。答え合わせも兼ねて♪」 こういう時の彼女の行動力は凄い。 エネルギーに気圧されてしまうこともあるが、見習いたいと思っている部分だ。 彼女の行動力に流されながら、次の休みまでのスケジュールを頭の中で整理した。 次の休みを、いろんな面で待ち遠しく感じる。
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