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部屋を出て廊下を歩くと、リーヌとすれちがう人々は、気軽に手をあげたり、「おっす」といった感じで挨拶をしていて、姫を丁重に扱っている感じはなかった。
共に闘う同志といった感じなのだろうか。
途中、窓があって、気になって見てみると、外は暗いが、赤紫色のもやや、銀色の塵がチラチラと通りすぎて――って、もしかして?
「あの、ここは、宇宙ですか?」
「宇宙というと、大雑把すぎるが、地球から連合軍基地の星に移動中だ。
タケルのパワーを感知する為に、地球に近づいたからな」
説明するために立ち止まっていたリーヌは、またさっさと歩きだす。
俺がやっとついていける程、速く、大股だ。大股というか、股下が俺より長いのかもしれない。背丈が、男性の平均身長170cmの俺より、10cmは高そうだ。いや、2mあるかもしれない。
「おい、ミン、いるか」
リーヌがとある部屋に入っていき、俺も入る。
中は少し狭い体育館といった感じで、運動器具らしきダンベルのようなものや、刀も置いてあり、闘いができそうな道場のようなスペースもある。
「何だ?」
奥から息使いが荒い声が聞こえる。トレーニング中らしい。
リーヌはづかづかと声の主に近づいていき、俺も後を追う。
「姫がわざわざ来たんだ。出迎えてくれてもよかろう」
「今さら姫扱いか?」
ミンと呼ばれてた男が鼻で笑う。いかにも格闘家らしい風貌で、すごみがある。
「こいつと決闘してくれたら、許してやる」「「は?」」
ミンと俺の声が重なった。
俺は、決闘なんて、聞いてない。やったこともない。できるはずない。
「だれだ、こいつ?」
「王子、タケルだ」
「じゃぁ、召喚に成功したのか」
「いかにも」
「へぇ、こいつが王子か。ひょろいな」
「全王の血が流れている。その力を確認したい。全力で頼む」
「しかたねぇな」
ミンが道場へと歩きだし、リーヌと俺もついていく。
「使ってみろ」
ミンから刀を渡された。
どうしたらいいかわからない。刀なんて、使ったことない。
とりあえず、両手で握る。
「鞘をとれ」
ミンは、呆れている。
そうだ、わからない時はしっかり質問するのが、できるビジネスマンなのだ……。
「すみません」
鞘をとって、また両手で握る。
「来い!」
そう言ったミンの刀は、赤い光を放ち、チェンソーのように膨らんだ。
え、何? 仕様が違い過ぎるだろ? こ、このまま突っ込むか? 手加減くらい、してくれるだろう。
普通の刀の切先をミンに向け、両手で持ったまま、ミンの懐にえいやと飛び込んだ。
「止め!」
俺がミンに届く前、いや、俺がミンに殺される前に、リーヌが止めた。
肩に、痛みが走り、じんわりと血がワイシャツに滲んだ。
怖……。あのままいったら、首が飛んでいたかもしれない。
俺は、できないくせにいつも楽観視して、すぐミスをしてしまう。けど、今は、ミスが命取りなるようだ。気をつけたい。
「おい、本当に全王の血が流れてるのか?」
ミンがリーヌにそう問うが、俺もそう思う。たぶん、人違いだから、地球に帰して欲しい。
「タケル、本気出してるか?」
会社でもよく聞かれる言葉だ。俺は、いつも本気でやってるつもりなのに、周りからは、そう見えないらしい。
今も、そうみたいだ。結局俺は、どこへ行っても……。
「刀に、体の気を溜める感じでやってみろ」
「へ?」
「いや、悪い。地球人のタケルは、この刀の使い方を知らないのも当然だよな。
持ち主の精力や念力を伝えると、力を発揮してくれるのだ。やってみろ」
優しくも、リーヌが刀の説明をしてくれた。
が、やってみろって、俺、そんな事――
「できないです」
「とりあえず、やってみろ」
リーヌに促されて、刀に集中してみる。
…………!? なんだと? できた?
青い光がビリビリと刀から火花のように放っている。
「やはり、力はあったか。そのまま、ミンを刺すイメージも刀に伝えて動いてみろ」
リーヌに言われた通り、やってみる。
刀と体が一体化した、軽くなった感じがする。刀と共に軽やかに体が動き、刀が動くべき方向を示してくれるようだ。
切先を上に向けたままミンに向かい合い進む。ミンが刀を振るってくるや否や、それを俺の刀は横に凪ぎ払い、腕が上がって空いた所に突っ込む――。
「止め!」
今度は、俺の刀が、ミンの心臓を触る手間で止まっていて、ミンの刀は、まだ翻ったままだった。
「思った通り。できたな」
リーヌはうんうんと頷いている。
「できた……」
やったこと無かったのに、やったらできてしまった。こんな能力が、この俺にあったなんて。
失敗ばかりの俺に、できることなんて無いと思っていたのに。
「凄いな。よろしくな、タケル」
刀を持って突っ立っている俺の肩(怪我してない方)をミンが、叩いた。
「ああ、うん」
認めてもらえたのは、嬉しい。最近、認めてもらえたことなんて、あっただろうか。
けど、宇宙人と共に闘うことになった現状をまだ飲み込みきれてない自分がいる。
力に目覚めた俺は、しがない俺の今での人生が、白く消されていく気がして、少し寂しくなっていた。
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