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純平には勝算があった。
十五年勤め上げた建設業界での人脈はやはり心強かった。そしてコンサルとしての己の手腕にも自信があった。
『ビル一棟を大小のパーテーションで区切った、サブスクリプション』
彼の狙いはここにあった。日本では、いや世界のどの企業も着手していない。行政法人、民間法人、シェアする団体、個人向け等に提供する定額制の『空間使い放題』
どの企業も参入していなければそこは手を伸ばせば伸ばしただけ自分の版図となる地平が拡がっている。
事業としての可能性は高かった。
三ヶ月で二十の企業でプレゼンを開き、五つの企業から出資の約束を取り付けた。融資の可能性がある場所には足繁く通った。
しかし、それでも軍資金は足りなかった。
「あなたが経営に乗り出したら、この家族はおしまいよ」
妻は貴之が眠りについた頃合いを見計らって純平に告げる。
「なぁ、わかってくれよ。必ず幸せにするから」
じりじりと純平を見つめる妻の表情は笑っていた。結婚して十年。妻の初めて見せる表情に背筋が逆立った。
ーー既成事実をつくって納得させるしかない。絶対に上手くいくんだ。必ず成功させる。
純平はキッチンの棚にそれとなく目を走らせた。そこにはこの家庭の預金通帳が隠してある。細かい端数を除いて三千万は貯金していたと思う。
離婚をすれば財産は分与される。しかし、株式会社への資金提供後なら、分与は免れる。
低音で流れる歌番組のテレビに向かい、妻は欠伸をしたのか目頭を押さえていた。
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