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ゲーム・ハルーシネイション
「ピーンポーン」
家のチャイムがパソコンを見ている健太の耳元に届いた。
健太はパソコンを動かしてる黒いマウスを止めて二階から足早に一階へ降りてリビングにあるモニターインターホンで誰が来たのか確認した。
緑の制服、緑のキャップを被り正方形の四角いダンボールを大事そうに両手に抱えてこちらをじっと見てる。ダンボールの高さは大人男の拳四個分くらいあるだろうか。
それらを確認して小さいモニターの下にある通話ボタンを押した。
「はい」
「あっプリンス宅急便です!お荷物お届けに来ました!」
「今から取りに行きます」
通話ボタンの横にある終了を押して玄関先まで向かった。
凄いハキハキ対応してくれたな元気あり余ってるな寒いのに。
土や泥で汚れた白い自分の靴のかかと部分を踏んで履いて玄関を開けた。
「はい」
「あっこんにちは!早速なんですけどこちらの紙にサインかハンコお願いします!」
男のくせに声が女性並みとは行かないけどそこそこ高いから耳がつんざかれそうだ。それに合わせて発する声も大きいから早くこのやり取りを終わらせたい。
「あぁ…じゃあサインで」
「分かりました!じゃあこちらのボールペンでお願いします!」
その男からペン受け取って家のドアにサインする紙をピッタリくっつけて下敷き代わりにしてペンで安藤と雑に書いた。
その書いた紙とボールペンを男に渡す。
「はい!ありがとうございます!じゃあこちらお荷物ですね!」
男から差し出された荷物を受け取った。持ってみると思ったより軽かった。この男さっきモニターで覗いたとき両手で持ってたからてっきり重い荷物かと思ったじゃないか。
「はいわざわざありがとうございます」
「じゃあ!失礼します!」
男はその言葉を最後に頭を軽く下げトラックに向かっていった。その背中をちょっと見てからドアのストッパー代わりにしていた自分の左足を抜きドアを閉めた。
ダンボールの開け口の真ん中に貼ってある伝票から送り主が誰か見てみた。
送り主はゲームマンと書いてあった。
ゲームマン?ゲームマン…
頭の中で過去の記憶を土を掘るスコップのように掘り返してみるがこんなのを頼んだ記憶が見当たらない。
ゲームをネットで頼むことは割とやってるから不思議には思わなかった。ここ最近もネットで興味をそそられたゲームソフトがあってそれを買ったからてっきり最初はそれが届いたかと思って受け取ったらまさか見に覚えのないものが届くとは。
これが荷物が両親のものじゃないかと頭の片隅に浮かんできたけど父親はネット音痴だから買い方すら知らないと思うからないし、母親はネットで買うことはあっても届くのは服やカバンだからこの荷物は頼まない。
となると必然的に頼んだと思われるのはやっぱり僕か。
んまてよ?
ふとある閃きが浮かんだ、もう一度伝票を見てみる。やっぱりあった、電話番号。
この電話番号に掛けて頼んだ覚えは無いって伝えればいいのか最初からこれに気づいてれば、まぁ気づいたからいいか。
かかとを踏んだ靴を脱ぎダンボールを右の脇に右手でかかえたままリビングに行き固定電話の前に立った。
本当なら母親にこの事を伝えて後のことは全部任せたいけどこんなときに限って友達とランチ行ってるし当分帰ってこないぞ。
帰ってくるまで待てば済む話だけどもう僕も中一になったからいつまでも母親に頼ってばかりじゃ恥ずかしいからな。しょうがない。
「はぁ」
小さいため息を吐いてから伝票に書いてある
電話番号を入力して発信した。
すると出てきたのは
「ただいまこの携帯電話は使われておりません」
という無機質な女性の声だった。
耳に当てていた受話器を元に戻してまたそこの場で少し考えを巡らせた。
これは想像してた展開と百八十度違う。
電話が繋がらないなんてそんなことあるのか。
となるともう打つ手がなくなってお手上げ状態、もういっそのこと開けてみようか。
その考えに至った健太は受話器の前に置いていた例のダンボールを持って二階の自分の部屋に向かった、その足取りは一歩一歩噛み締めて歩くように決して軽快には登っていなかった。
部屋のドアを開けて勉強机の椅子に腰かけた。
勉強机の上には黄色のシャーペン、下敷き、理科の教科書とそのノート、シャーペンを消した消しゴムに消しカスがあって誰が見ても途中で勉強を放り出したと思えるくらいの散らかりようが表現されている。
その散らかったものたちを右手で全て押し出すようにして机の端の方にやった。
膝上に乗せていたダンボールを机上に置くとダンボールを閉じていたガムテープを雑に開け中を確認した。
中にはまずゲームソフトらしいものは最初に目に入らずそこに入ってたのはダンボールの大きさの割には少し小さめの梱包材だった。よく言われてるプチプチというものだ。
その梱包材を手に取ると何かが中に厳重巻かれているようだ。
この中に入ってるのがゲームソフトか。
その梱包材を乱暴にビリビリに破いていくと中に入ってのが何か見えてきた。
ゲームソフトだ。でもこのゲームソフトは見覚えがある。だってこのソフトはすぐに生産中止されてしかも回収された幻のゲームソフトだもの。忘れるはずもない。
こうなった原因も確かやった人が精神がおかしくなり訴えたことが始まりだったはずそれでこのゲームソフトを作った代表がそんなバカげたことある訳ないっていって実際にプレイした2日後にストーカーが寝ているときでもそばにいるとか言い出して入院になっちゃんたんだよな。
それが原因で生産中止と回収作業とその返金が行われたんだよな。
凄いなそんなゲームソフトが今僕の手にあるなんて…
この瞬間健太の胸にある興味が出てきてしまった。
本当ならこのまま捨てるのが自分の身にも危害が及ばず一番平和に終わるんだろうけどゲームマニアの僕としては血が騒いでしまう。もうネットにもどこにもないレアソフトが今手にあるここで捨ててしまったら一生後悔しそうだ。確かにこれをやったらおかしくなってしまうかもしれない、でも科学的な根拠が無い以上嘘ってこともある。つまり代表の自作自演説だって全然可能性としてはある。
ただ何が目的でやったのかと聞かれると思いつく言葉がないけど。
後のことなんてどうにかなる。今を楽しまなきゃ。担任の先生もそう言ってたし。
健太の中にもうそのゲームに対するリスクと不安が完璧に無くなり残ったのはゲームをプレイしたいという純粋な気持ちだけだった。
梱包材の中からゲームソフトを手に取った。
ゲームソフトを右手の人差し指と親指で挟んで変なところが見た目で出てくるかどうかぎろりと舐め回すように見た。
見た結果普通のゲームソフトと何ら変わらなかった。タイトルはスファイヤというわけのわからない名前だったがそんなよく分からない名前は世界にごろんと転がってるから気にするほどでもない。
スファイヤは大きさ的に携帯ゲーム専用ソフトか。
そう感じた健太は机の二番目の引き出しから左半分は緑、右半分は黒、そしてその色たちに挟まれた真ん中に液晶画面があるゲームを出してその上の方に設計されているゲームカセットにスファイヤを入れた。
すると少ししてから画面全体が赤く染まりその右下の方に黒い文字でスファイヤと小さく書かれたのが出てきた。目をゲームに近づけないとなんて書かれてるかわからないくらいにスファイヤという文字は小さかった。
それが消え、次に画面に現れたのはスファイヤ、スファイヤ、スファイヤそのスファイヤが画面いっぱいに出された白文字。背景は全部黒。ちょっとここで違和感みたいなのが出てきた。普通はそのゲーム映像みたいなのが流れて大体あっこういう風なゲー厶なんだなって分かってまた楽しみな気持ちが増えてそのゲームを進めようっていうやる気意欲が上がってくるんだけどこれは背景を赤に黒にと転々したり文字はスファイヤしか出さないし全体的にまとめると不気味でゲームを進める気にならない。逆に生気を吸い取られる感じがゾワゾワと背筋を伝って脳に伝わってくる。
さっきの画面のままからスタートボタンを押す。
画面に灰色の棒がでてきてその上にクリーム色の丸いパチンコ玉のようなのが乗っているこれまた理解不能な画面が出てきた。背景はさっきの画面と変わらず黒色。その横に掛け算のかけるマークと数字の三が並んでいる。
これを見るに恐らく残機を表しているのだろう。つまりこれが示すのは残機三ってことか。
次の瞬間音が流れ始めた。結構ポップな音楽、クラブに流れてそうな音で90年代っぽい音楽を感じる。サビというサビがどこか分からず微妙。今どきこんな古臭い音楽使うのは少しセンスがずれてる。
音楽が流れはじめたと同時に画面にも変化が現れて僕が動かすと思う主人公的なキャラクターが出てきた。
髪は黒髪、目は少し閉じ目気味ながら目がウルウルと潤っていて優し目な目をしている。二重も割と目立ってる感じがする。時代が時代ならイケメンと言われてるちやほやされているだろうな。
鼻も両サイドの骨格がきれいに出ていてまさに周りから羨ましがれる程の鼻の綺麗さを出している。
口の部分は上唇がタラコ唇みたいに分厚く下唇はベニヤ板のように薄く非常にアンバランスで個人的にはブサイク。
口が完璧なら自分の中で一位や二位を争う程のビジュアルだったのに。
そんなことを思ってると画面に名前を決めてねと出てきたから名前を自分の本名のけんたと平仮名で入れた。
すると
「けんた、君はこれからスファイヤと戦ってもらうこれがラストの勝負だ!今までの死んだ仲間の分まで頑張るんだぞ!いざゆけ!けんた!」名前を入力し終わると画面が暗転し暗くなりその白い文字だけが出るだけで一体誰が喋ってる設定なのかがまったくわからない。
それに文字の雰囲気的にもうラスボスな気がする。死んだ仲間の分までってその仲間すらあったことないし死んだことすら初耳。
バク、故障かそれとも最初からそういう設定なのかどうなんだろう。
でも恐らく故障だろうな。こんな設定ならまず売れないよ。ゲームはアクションもさることながらそのゲームごとの深いストーリーも醍醐味の一つなのにこれはそれを除いているから面白みが一つ欠ける。
急に画面が白くなり明るくなった。
その明るさがだんだん落ち着いていくと
ゲームの中のけんたと何か怪物らしきものが見つめ合ってる映像が流れた。
恐らくあの怪物?バケモノ?みたいなのが
スファイヤなのだろう。
そのスファイヤらしきものの姿は
赤く散らかりまくった長髪が目を驚かすかのように強烈に飛び込んできた。
おでこには青い文字で憑と華奢な字で書かれている。
目はすぐ見た感じ普通とも見えるがよく見てみると両目の眼球の横に血管が浮き出ていて今にでも切れてしまうんではないかというくらいぷっつんと出ている。
口は常に口角をあげて笑っているようにも見えるが大抵の人は怒ってるように見えてしまう。赤い長髪がそういう風に思わさせるかのようにうまく仕立てられている。
服はカーキ色だがボロボロ。カーキといえども汚れと汚さの上でのカーキ色だと判断できる。
ズボンもカーキ色でボロボロ。膝は両方とも破れたところから顔を出している。それから見るに膝は普通の人間と変わらない肌色。
そのスファイヤらしきものを一言で表すならナマハゲ。手に武器を持ってないナマハゲ。
「やっと来たなぁけんたよ。待ちくたびれたぞ。おや?お仲間たちはどうしたのかな?もしかして裏切られたのかい?それとも呑気に旅行でもいったのかな?あっもしかしてワタシが送った部下たちにやられて桜のように散っていったのかな?まぁいいここに居るのはパーフェクトブレインボディこと
スファイヤと心身と共に疲れ果てたご様子のけんたくんの二人だけだ。
邪魔者は誰も居ないさぁ始めようか最後の戦いを!」
映像はスファイヤの顔面を移したままでその下にスファイヤが喋った言葉たちがスクロールのように出てきた。声優などは使ってなく臨場感には少し欠けた。このゲームは欠けるものが多いな。
次の画面に最初のようにナマハゲとけんたが睨み合う映像が流れ出し、
スファイヤのターンと画面中央にでかでかと出てきた。恐らく攻撃されるのだろう。
だがスファイヤは攻撃してこず起こしたアクションは見つめるというゲームの概念を覆した行動だった。そこ行動の名の通り見つめるだけで何も起こらなかった。
画面にけんたのターンと表示されて
画面下側に攻撃、魔法攻撃、銃攻撃の3つが自分が行動できるコマンドとして表示された。
全部攻撃しかないんだ防御ないんだと最初は疑問に感じたが別に珍しいことではないのかこういうタイプのゲームを何個かあったしと自分で自分の疑問を解決した。
その中から一番シンプルな攻撃を選んだ。
けんたはスファイヤと睨み合った状態から一気に走って距離を詰めてその勢いを生かした細見ながら豪快な体当たりをスファイヤに繰り出した。
すると画面がまた変わりスファイヤの全身が映し出された。
画面下側にまたスファイヤが喋ったことが出てきた。
「痛い…痛い…ハハ…おめでとう君の勝ちだよけんたくん。私は君のたった一発の攻撃に耐えられなかった情けないよ。最初あったときに私は君に言ったよ、もし私を倒せたら私はここスカイパークから去るってね。
そしたら君は頷いた。君の希望通りにここから私は去るよ。
でもな…でもな…これで終わったと思うなよ?君と私の関係はこれからもずっとずっと永遠に続くんだ。この意味が分かるかい?
試合に負けて勝負に勝ったとでも言っておこうか。ほら」
スファイヤはそう言うとまるで僕の方を見て指をさすような行動をとった。
ここからまた何か新しい展開が起こるのかとゲームを持ったまま待ってたが何も起こる様子はなくずっとスファイヤが指をこちらに向けている画面が続いてる。
スファイヤが攻撃を受けたダメージからか肩で息をしているのも確認できた。
そのスファイヤをずっと見てるとだんだんその指差しが後ろを向いてみろとスファイヤから声は出さずとも気配やオーラでそう聴こえた気がした。
そのとおりにして後ろを向いてみるとスファイヤが仁王立ちしてこちらを見ていた。
その信じ難い光景を目にして見た瞬間女性の悲鳴のような裏声を出して体の神経という神経が縮こまり恐怖を感じた。
その驚きと恐怖が混ざった叫び声を聞いてもスファイヤはゲームと同じく笑ってるのか怒ってるのか分からない表情を貫いている。
その後スファイヤと現実世界で見つめ合う時間がカップラーメンの待ち時間ほど続くとスファイヤが今度は僕の持っているゲーム画面のほうを指さした。
スファイヤの言う通りにゲーム画面に目を落とすとそこにスファイヤの姿はなくゲームクリアが英語で書いてある。クラッカーやら紙吹雪が臨場感を出して祝福している。
その瞬間健太は全てを理解した。
代表が入院した理由もこのゲームが回収された理由も。
スファイヤがゲーム上で言っていた試合に負けて勝負に勝った。
ゲームでは負けたけど現実世界では勝ったということだろうか。
スファイヤにもう一度目を向ける。
スファイヤは何も言う気配もなく攻撃体制になる気配もなくただこっちを目を一切背けず様子を伺ってるように見ているように感じた。
全てを悟って試しに一階にあるトイレに向かって歩き出してみるとその後ろからまるで親の歩いたあとを見失わないように一生懸命歩いてる子供のように後ろを着いてきた。
やっぱりそうか。
就寝中でも食事中でも気晴らし中でも
目を開ければすぐに奴が居る。
こっちを意味をなく見つめている。
携帯型のストーカー、僕にしか見えない透明なストーカー、
絶対に倒せないストーカー、
そんな奴が僕にピッタリと憑いてる。
まるで守護神のように。
後悔してもしきれない
毎日沈んだ気持ちをなって自分を責める日々
それが後何年続くのかな。
誰か僕を…助けて。
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