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「--はっ……!! はあ……っ」
全身の骨が強引に歪められているような激痛に堪らず瞼を開けた。
耐え難い窒息感に息を吸おうとするが呼吸はままならず、息苦しさは和らぐどころか酷くなっている錯覚がする。
いっそ楽になれたらと死を望んでしまう程の痛みだというのに一本の指先すら動かない。限界まで見開いた視界に広がるのは闇のみで、絶望に精神が先に壊れてしまいそうだった。
「たす……けてっ……」
一言絞り出すだけでも悲鳴を上げる身体に苦しめながら必死に助けを求めた声は情けないくらいか細くて、聞き留める者は現れず容易く暗闇へと吸い込まれていった。
痛みと絶望がぐちゃぐちゃに綯交ぜになった涙がボロボロと溢れ出る。嗚咽が止まらず、顔をぐしゃぐしゃにしていた時だった。
「レリ……アナ?」
苦痛に耐える中で、その愕然とした声を聞き留めたのは、助けを求める心が起こした奇跡かもしれない。
何一つ思い通りにならない体では奇跡の正体は確かめようもない。だが、なんであろうと孤独に思えた空間に差し込んだ希望の光で間違いなかった。
「たすけ……てっ……!!」
もう二度と現れない奇跡に縋る気持ちで必死に声を振り絞った。すると、息を呑む声がした。床を蹴るような一際大きな音が聞こえたと思った次の瞬間、頬に冷たい感触がする大きな何かが触れた。誰かの手だ。
目の前に誰かが立ち、注がれている視線を感じるのに、暗闇では感触以外に捉える事ができない。
「大丈夫。もう大丈夫だ」
力強く言い聞かせるその声を聞いた瞬間、不思議と心の底から安堵が込み上げた。死を覚悟する程の激痛が一瞬で消え失せ、呼吸が落ち着いていく。
何が起きたのか理解できない中で、ただ一つ助かったのだと妙な確信が胸を満たした。
「遅くなってすまない。君を一人にしてすまない。安心してくれ、もう君は独りじゃない」
心の底から悔いるような声に胸を締め付けられる。助けてくれてありがとうと言いたいのに、強い解放感に力を失っているのか声が出ない。
せめて顔が見たいと思うのに、意思とは反対に意識が薄れていく。
「今はゆっくり眠って。また目が覚めたら、今度こそゆっくり話をしよう。君が目覚めるまでずっと傍にいる」
鈍い感覚の中で、安心づけるように手を握られるのが分かった。おやすみと囁かれた途端、完全に糸が切れたように意識が落ちる。
その寸前、一瞬だけ明るくなった視界で優しく微笑む美しい人を見た気がした。
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