第一話 冬生

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 ただ、それが禁忌であること、兄がもう自分の知っている兄でないことだけは理解できた。  その夜を最後に、兄は姿を消した。  兄が帰らなくなると、冬生の家には入れ替わりに知らない男が出入りするようになった。義母とよく似た、だらしのない男だ。  義母というのはどうしようもなくだらしがない女だった。今はまるでしなくなったが、父が生きていた頃は彼女も料理をしていた。作るのはいいが、片付けるということをしない。作業をしたあとは片付けるという概念が、そもそも彼女の中にはないようだった。万事がそんな感じなので、次第に家の中は荒れていった。去年、事故で父が死んでからは尚更だ。兄がいればまだ一緒に掃除をしてくれたが、ひとりになった今は、子どもの冬生が少しくらい掃除をしたところで状況は変わらない。狭いアパートの部屋の中は、日に日にごみで埋もれていった。  義母も、彼女が連れてきた男も、片付けどころか、不要になった物を捨てるということもしなかった。彼らが食べたものの容器などは、洗わないまま袋に詰められ、いつも冬生と兄が布団を敷いて寝ていた居間のあちこちに転がり、いつまでもいやな匂いを放っていた。その中で義母は兄と同じことを男とするのだ。
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