完成しない僕らの結婚について

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 見てくれも良く、格好もこぎれいに嫌味無くまとめている姿は、さすがアルファというところだった。  内心人を馬鹿しているような、値踏みする瞳も、さすがアルファだった。 「最初に話しておくが、俺は君と結婚はするが、セックスは行わないよ」  ではオメガの男体の俺に、何の価値があるのだろう? 「君のご実家の血だね、欲しいのは。今後の付き合いを広げるなら若司(わかつかさ)家の血筋を求めたほうがいいと、うちの連中は判断したらしい。しかし俺は男には興味なくてね」 「じゃあ、女性のオメガを選んだらいいんじゃ? ない、ん、ですか」  引きこもりが長く続いた俺は、人と話すことが苦手だ。中学二年から立派な不登校、部屋にこもったまま二十一歳を迎えた。三十二歳の若社長に対する適切な話し方を脳内から引っ張り出すが、未熟な経験しかしていないので、記憶の本は真っ白のぺらぺら。俺は首をすくめるしかなかった。 「ちょうど良い女性がいなかったんだな。旧華族に。まあ、ご存じの通りうちは、老舗の聞こえはいいが古い体質にぶら下がっている一族でね。旧華族の箔は欲しいが、愛人の子だと表立って嫁探しもできないんだろう」  淡々と話すが、自分の事をはっきりさせてきた相手に、俺は多少興味を抱いた。  先代社長は、一族の反対を押し切って、愛人の子ながら最も優秀な次男を跡取りにしたらしい。  見合いの仲介業者から前もって聞いてはいた。血筋はあまりよろしくありませんけどね。何が血筋だ。  金に困って、二束三文で一人息子を身売りに出す方がよほど汚れた血だろうに。  六年間も家に引きこもってろくに外にでない息子を、厄介払いできるのなら、両親は何だってよかっただろう。  仲介業者だって言った。相手が男性でも、良いご縁ですよ。二十歳三十歳離れた男の後妻に収まり、介護と育児をやるよりもずっといいじゃありませんか。  坊ちゃん、このままだったらそういう人生を送ることになるんですよ。 「君も、セックスがない方がいいだろう?」  俺は思わず自分の首を押さえた。  首輪では隠しきれない、傷がついた首を。 「子供は欲しいから、人工授精をしてもらうことになるけどね。君は好きなようにしていいし、ご実家への援助も惜しまない。多忙だからあまり構ってはやれないが、大事にするよ。俺の条件はそれだけだ。あとは、君が判断していい」  傷物で。ニートで。借金まみれの実家で。  判断、なんてする余地などないことは知っているはずなのに、そう言ってくれるだけ、この人はマシなのだろう。  オメガはアルファと結婚するしかないのだから。    
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