2人が本棚に入れています
本棚に追加
「良彦君、君、SNSをやった事はあるかい?」
高校を中退して、親戚のコネで就職した大衆食堂で働いていた僕に、上司が声をかけてきた。あれから5年、僕は1度もSNSに関わっていなかった。
「高校の時に少し…」
「なら使い方は分かるな。この店のアカウントを作って欲しいんだ。おすすめメニューとかの写真を載せて、お客さんをもっと増やしたいんだ。だが、ワシらはネットに疎くてな…」
僕はもう正直SNSには関わりたくなかったが、中卒の僕を雇ってくれたこの店には恩を返したかった。
「分かりました、僕が作りましょう。最初に載せるメニューは何にしますか?」
「この店の看板メニュー、モツ煮で。仕込みはワシがやるから、良彦君はアカウントを作って来てくれ」
そう言われて僕は休憩室へ向かい、店のパソコンを起動させた。メアドはこの店ので良いよな。アイコンはこの店の内装で良いかな?IDは…。プロフは…。僕は久しぶりに触れるSNSに、緊張と楽しさを感じていた。 ふと、いちご男君の事を思い出した。彼はあれから、夢を叶える事は出来ただろうか?
出来上がったばかりのアカウントから、僕はいちご男君を探した。彼は、簡単に見付かった。いちご男@イチゴアンパン1巻発売中!というハンドルネームで、今もSNSを続けていた。ホームを見ると、彼が描いたイラストの写真が沢山アップされていて、その中で単行本発売の呟きがバズっていた。『イチゴアンパン1巻出ました!学生時代のアンパン大好きな親友を勝手にネタに使いました』 この呟きに、沢山のおめでとうが溢れていた。『夢がかなって良かったね!おめでとう!』『アンパン君てあの猫でバズっておかしくなった人だよね。あの子も良い子だったのに…。ともかくおめでとう!』『単行本絶対に買います』
「…酷いよタクミ君。僕の事を勝手にネタにするなんて…」
僕は鼻をすすって、ボソッと呟いた。
良かった、イチゴ男君こと、タクミ君はちゃんと夢を叶えてた。てゆか、僕の事をネタに使うという事は、少くともまだ僕の事を友達と思ってくれてるのかな?
呟きを遡ると、こんな呟きも見付けた。
『悪事に染まっていく親友を見捨てた事。助けてたら、一緒に卒業出来てたかもしれないのに… #今までで一番後悔してる事』
僕はSNSから逃げた。自分がやった事の責任もとらず、友人も置き去りにしたまま。また、繋がれるかな? 今からでも謝る事は出来るかな?
僕は店の方のアカウントの呟きを済まし、自分のスマホで自撮りをし、アカウントを作った。川端良彦(元アンパン)と本名を使い、アイコンは自撮り写真で、タクミ君をフォローした。
SNSの写真は、人にどう映るだろうか?
不快な写真と、幸せな写真。
それはきっと人によって感じ方は違うだろう。
僕はまた間違えてしまう事もあるかもしれない。それでも今度は、逃げずにSNSを楽しみたい。
バズる事にこだわらず、今度はちゃんと…。
最初のコメントを投稿しよう!