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第1話 親子の再開
七月三十日の昼過ぎ。名所旧跡が多く残るF町の駅のホームに、都会からの観光客に交じって一人の女子大生が降り立った。
彼女の名前は、坂中ミコト。19歳。
今、長い夏休みを利用して各地の名跡を訪れ、スケッチブックにそれらの風景を描いて回っている。
絵の腕前は友人の美大生が舌を巻くほど凄いもので、写実的に描くのを得意としているが、本人は建築家を夢見ていて絵描きになるつもりはさらさらない。写真を撮る代わりに絵で旅の記録を残すのが趣味なのだ。
彼女の背丈は170センチを越え、小顔で黒髪ロングヘア。お洒落な麦わら帽子を被り、花柄のワンピースから長い手足がのぞき、まるで夏服撮影にやって来たモデルかと思えるほどスタイルが良い。
彼女は赤い小型のキャリーバッグを右手で引き、濃緑の表紙のスケッチブックや道具類を入れた薄茶色のトートバッグを左肩に下げて改札口を抜け、近くの喫茶店で遅い昼食を取った後、タクシーで丘の上を目指した。
そこには、今日の宿泊先である2階建ての旧家を改装した旅館があり、5分ほど歩けばお目当てのZ城跡がある。わずかに残っている城壁が戦国の世の儚さを思い起こさせ、周囲の枯れ木混じりの林が哀愁を帯びたちょうど良い背景となり、描くにはおあつらえ向きの場所だ。
旅館のチェックインでは、法被を着た老女と中年の男性が出迎えた。顔つきがどことなく似ているので、親子なのだろう。
老女の案内で和室に通された後、早速折りたたみ椅子とトートバッグを持って部屋を出る。玄関から歩道までのS字になった道の両側には、鮮やかな花が百花繚乱とばかりに咲き乱れ、これも絵になるなぁと構図を考えながら、一路城壁を目指す。
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