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宇宙図書館
あいちゃんはピーチの方を向いて、
「アカシックレコードってなんなの?」
と大きな黒い瞳をキラキラ輝かせながら訊く。
「わかり易く言うと宇宙のデータバンクみたいなところみゃ」
ピーチは窓から青空を見上げる。
「宇宙のデータバンク?」
キョトンとしてあいちゃんはもう一度ピーチに訊いた。
「分かりやすく言えば宇宙図書館のようなところみゃ」
「その宇宙図書館に行けば将来出会うソウルメイトのことも分かるの?」
ソファに女の子座りしていたあいちゃんは正座してピーチに向き直る。
「わかるみゃー」
「でもそれは大まかな予測にゃ」
「え、どういうこと?」
あいちゃんの黒く大きな瞳がより大きくなってぼくとピーチを見つめた。
「決まった未来はないってことみゃー」
ピーチの言葉に続いて、
「タロット・カードの結果のように未来は変わるんだにゃ」
ダイアンが付け加える。
「じゃ何のための宇宙図書館なの?」
あいちゃんは少しがっかりした。
変わる運命など宿命の出会いとは言えないし、ましてソウルメイトとは思えないからだ。
「あいちゃんはどうしてもソウルメイトに会いたいんだにゃ」
「そうよ! あたし、運命の王子様を知りたいの」
あいちゃんは頬を真っ赤染めてピンクのクッションを抱きしめた。
「アカシックレコードにはその人の過去から未来までの、全ての魂の記録が保管されているにゃ。つまりあいちゃんの魂の遠い過去から未来に至るまでのデーターを見れば、どんな人と出会い、結ばれ、伴に人生を過ごしてきたのかがわかるにゃ」
「じゃソウルメイトは過去からずっと繰り返し出会ってきた魂さんのこと?」
「あいちゃん察しが良いみゃー」
ピーチが微笑む。
「つまり何度生まれ変わっても繰り返し出会い、人生を伴に過ごしている魂さんがあいちゃんのソウルメイトなんだにゃ」
「きゃー素敵! ロマンチックだわ」
「繰り返し出会う回数が多ければ多いほど、あたしに縁の濃い魂さんと言うことなのね」
あいちゃんの顔がパッと明るくなる。
「だからソウルメイトさんとは強い魂の絆で結ばれているみゃー」
「ただ、ソウルメイト同士がいつもラブラブな関係というわけじゃないんだにゃ」
「え、ダイアン、それどういう意味?」
「あいちゃん、どうして魂は転生を繰り返すのかわかる?」
あいちゃんは目を丸くしてぼくを見た。
「魂は自分の輝きを神様の輝きに近づけるために転生を繰り返すんだ。つまり魂を磨く修行をするためにね」
「じゃ、今のあたしもこの世に修行をしに来ているっていうの?」
あいちゃんは今までの辛かった経験からぼくの言葉が心に響く反面、どうしても納得出来ないでいるようだった。
「あいちゃんの納得いかない気持ちもわかるにゃ」
「あんな辛い経験したくなかったし、あんなの修行とは思えないわ」
「あの小学校の頃の経験は魂の計画にはなかった想定外の事件だったんだにゃ」
「想定外?」
「魂がこの世に生まれる前に、天国の円卓会議で神様といろんな計画を練るんだ。そのほとんどは神様が予め決めた計画なんだけどにゃ」
「その中からあいちゃんの魂が今回の魂のテーマを決めるのよ」
「じゃ、ピーチ。あたしが選んだ神様の魂の計画にそって今のこの人生があるというわけなの?」
「ただ、計画といっても大まかなものだから、魂が現実世界に転生して実際に人生が始まると、自分以外の人の思惑や環境の変化なんかも入り込んで来るから、人生が天国での計画通り進行するとは言い切れないみゃ」
「だからあの酔っ払いの事件は想定外の出来事だったというのね」
「そうなんだにゃ」
そう言ってぼくは右足で耳の裏や耳の付け根の辺りを忙しなく掻いた。
「だから未来は揺れ動いているというわけか」
あいちゃんは納得し笑顔になった。
「わかりきった未来は楽しくないにゃ」
「でも知りたいの。過去も未来も。どんなソウルメイトと過ごしてきたのか」
「じゃ見てきてあげようか?」
「でも教えてもらった結果は変わるかもしれないんでしょ」
「さっきも話した通り、未来は変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。想定外の事があるかもしれないけど、基本、未来を決めるのはあいちゃんの意思次第だにゃー」
「だからあいちゃんのソウルメイトへの思いが、未来をある程度決めるみゃー」
「あたしの思い……」
「そう、あいちゃんの強い思いが理想のソウルメイトを呼び寄せるんだにゃ」
「恐いと思うのなら知らない方がいいみゃー」
あいちゃんはクッションを抱きしめたまま考えていたが、
「ダイアン、ピーチ、あたしのソウルメイトどんな人か見てきて」
そう言って目を輝かせた。
「了解したにゃー」
「やった!」
「結果はすぐにわかるみゃー」
そう言ってピーチがウインクした。
「あ、でもあんまりがっかりするような人だったら教えなくてもいいからね」
あいちゃんは、ちょっと不安になった。
「ねぇ、一緒に行くほうが楽しいかもよ」
突然ピーチがぼくの方を振り向いて突拍子も無いことを提案した。なぜならアカシックレコードを見に行くには幽体離脱するしかないからだ。
「それはあいちゃんにはまだ厳しいんじゃないかにゃー」
ぼくはしわしわのジャガイモのような渋い顔になった。
「あたしも一緒に連れてって!」
あいちゃんは行く気満々だ。
「大丈夫よ。みんなで行こうみゃー」
「じゃみんなで行くことに決めたにゃー」
「やった!」
そう言ってあいちゃんとピーチが手を取り合ってはしゃいだ。
こうしてぼくたちはあいちゃんのソウルメイトを探すためにアカシックレコード見学の旅に出かけることになったんだにゃ。
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