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前世
「アカシックレコードを見に行く前に前世について少し話しておくにゃー」
そういってぼくはあいちゃんの方を向いた。
「あたし前世って漫画雑誌のニャータで読んだことあるわ」
あいちゃんはベッドの脇の本棚からその漫画雑誌を取り出した。
「前世は漫画の世界の作り話じゃないみゃー」
ピーチがその雑誌を器用に爪で開きながら言うと、
「あいちゃんは人間や動物に前世があるって信じられる?」
ぼくは改めてあいちゃんに訊ねてみた。
「わからないわ。だって自分の目で確かめられないし、そんな記憶残ってないもん」
あいちゃんも改まって訊かれると考え込んでしまった。
「前世はほんとにあるんだ。あいちゃんは日本以外の国で何世紀も前に、別の人間として人生を送っていたこともあるんだにゃ」
ぼくがそう言うと、ピーチが、
「前世を知ったからといって今の人生になんの役にもたたないみゃー」
「たしかにそうだけど、前世で作ったカルマを知れば、今の人生に立ちふさがる障害を乗り越えるきっかけになることだってあるにゃ」
「カルマってよくわかんない」
あいちゃんは、だんだん話しについて来れなくなって退屈そうにあくびをした。
「単純に言えば魂の傷よ」
ピーチは間髪いれずに答えたが、
「ふぅーん……」
あいちゃんは返す言葉がなかった。
「カルマは、前世でつくった魂の傷が、なにかのきっかけで浮上し、現世の自分に影響することだにゃー」
ぼくの詳しい? 説明でますます理解不能に陥ったあいちゃんは、
「……」
完全に沈黙した。
「前世を少し旅して、それから未来を見れば、自分の魂が何を学びこれから何を学ぼうとしているのか、自分の魂の目的が何なのか見えてくるわ。そうすれば今回の人生であいちゃんがどうしてあんな苦しみを味わったのか、それがどういう意味を持つのか知ることが出来るかもしれないみゃー」
「すてき!」
あいちゃんの瞳が再び輝いた。
「じゃ早速アカシックレコードを見学しにいこうにゃー」
ぼくは窓から見える空を指差した。
「わぁーい」
あいちゃん大喜び。
「あいちゃんはベッドに寝てね」
そういうと、ピーチがベッドにピョンと飛び乗った。
「どうしてベッドに寝るの?」
「リラックスして肉体から魂が離脱しやすくするためよ」
「魂が肉体から離れる……」
あいちゃんは少し青ざめて足を震わせた。
「僕らがあいちゃんの両脇についてるから大丈夫にゃ」
そう言ってぼくもベッドにピョコンと飛び乗った。
「魂が肉体から離れたら死んじゃうわ」
あいちゃんは両手を祈るように組んでベッドから少し後ずさりした。
「大丈夫だよ。肉体は魂の乗り物みたいなものなんだ。だから魂は肉体を乗り換えながら転生を繰り返しているんだにゃ」
「だから乗り降り自由みゃ」
「あたしやっぱりやめとこうかなぁ」
あいちゃんは怖じ気づいてしまった。
「自転車から降りても人は死なないよね。それと一緒なんだけどにゃ」
「え、そんな単純な事なの?」
「みゃー」
ピーチが微笑んだ。
「やっぱりあたし行く」
案外単純に説得されたあいちゃん。さっきまでのビビリは何処へやら。ぼくとピーチが待つベッドにあいちゃんは上がってきた。
「じゃ横になるだけでいいのネ」
そう言ってあいちゃんは横になり、胸の辺りで手を組んで体全身の力を抜いた。
「じゃ、あいちゃん目をつむるにゃ」
「うん」
さあ、いよいよ出発だ。ぼくとピーチはあいちゃんの両脇に箱座りしてカウントをはじめた。
「3にゃ、2にゃ、1にゃ……」
その瞬間ぼくたちは光になって飛び立った。
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