全ては光の存在にゃ

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全ては光の存在にゃ

「あたしの体がどんどん遠ざかる」  幽体離脱して光になったあいちゃんは、ベッドに眠っている自分の体を不思議そうに見つめた。 「あたしたちが付いているから大丈夫みゃー」  ピーチが少し不安げな様子のあいちゃんの右手を握る。 「人間も動物も植物も、さらにそれら以外の地球に存在する全ての物も、本来は今の僕らみたいな光の存在なんだにゃ」  と言ってぼくもあいちゃんに微笑み左の手を肉球で握った。 「全てって、生き物だけじゃなくて、木や石ころやプラスチックや粘土や風や……地球や宇宙に存在するあらゆるものは光だってこと?」  不思議そうにあいちゃんは訊ねる。 「もちろんすべての物質が光できているし、意識もあるにゃ」 「意識も?」  あいちゃんがだんだん混乱してきたので、 「今のあたし達が光なのに意識や感覚があるのと同じみゃー」  そう言いながらピーチはあいちゃんの右の一指し指を小さな肉球で握り締めた。 「そう言われてみればそうね」  あいちゃんは冷静に返事してくれたけど、とても心細かったのか、両脇に寄り添うように飛んでいるぼくとピーチの手をギュと握りかえした。 「ぼくの肉球をムニュムニュしていいにゃ! リラックスできるにゃー」 「あたしのもムニュムニュしていいみゃー」 「わぁーい! ダイアン、ピーチちゃんありがとう」  あいちゃんさっそくぼくらの肉球をしばらくのあいだムニュムニュして遊び続けた。  ぼくらはいつの間にか地球を離れ宇宙空間を遊泳していた。 「わぁ! 地球だ……。な、なにか凄く温かなものを感じるわ」 「地球だけじゃないよ。月や星々からも感じるにゃー」 「ほんとだ。地球さんや月さんや木星さんやすべての星々から心地よいぬくもりが伝わってくるわ」  あいちゃんはハートがとても熱くなるのを感じた。 「いま感じているのが愛の波動だにゃー」 「愛の波動……」 「ぼくらを含め、この宇宙に存在する全てのものは神様の愛のエネルギーで出来ているんだ。だから愛の波動を出しているんだにゃ」  あいちゃんはぼくの話を聞き終わると、大きな瞳から沢山涙を流した。 「あたしたちは愛の存在なんだね」  あいちゃんはそう言ってまた涙を流した。 「そろそろアカシックレコードにアクセスするみゃー」  ピーチがそう言った瞬間、ぼくらの目の前の高い山の上に、深い緑に覆われた巨大な白い神殿が現れた。 「素敵なお城! あのお城にあたしの白馬の王子様がいるのね!」  あいちゃんは意外と頭と心の切り替えが早かった。 「神殿は巨大な建築物なんだにゃー」  あいちゃんは神殿の巨大さと美しさに圧倒された。 「ダイアン、もっと他に良い例えないみゃ?」  ピーチの相変わらずの突っ込みだったが、  「にゃいばい」  とぼくは柳に風とピーチの口撃をかわしたにゃ。  そうこうするうちにぼくらは神殿の正門前に到着したにゃ。  あいちゃんは、遥か天空まで届くような巨大な門の入り口を見上げ言葉を失った。 「お待ちしておりました」  どこからともなく声がした。 「あいちゃんの魂の記録をみせてほしいにゃ」  ぼくがあいちゃんを神殿に紹介すると、 「畏まりました。少々お待ちを」  神殿は丁寧な言葉遣いで返した。そうなんだにゃ。声の主は神殿さんそのものなんだにゃ。 「神殿がしゃべったわ」  あいちゃん大興奮!  ガラガラガラガラ  その時神殿の二枚の巨大な扉が開いた。 「さ、行くにゃ!」  ぼくらは門をくぐり神殿の中に入った。  神殿の中庭は深い森のようで、枝葉の隙間から優しい木漏れ日が降り注いでいる。  小川のせせらぎ、小鳥たちのさえずり、そよ風に煽られる葉と葉の擦れ合う音。それらが見事なハーモニー奏で、まるで妖精たちの光と音のシンフォニーのようだ。  あいちゃんは感極まり黙々と神殿の中庭を歩き続ける。  しばらく歩くとぼくらの目の前に白亜の殿堂が見えてきた。その建物の中に入ると、光るエンタシスの柱が立ち並び、大理石が敷き詰められた通路が真っ直ぐ奥へ伸びていた。  通路の先に宇宙の図書館があるのだ。  ぼくらはその美しい通路を十五分ほど歩き続けたにゃ。 「あ、あそこに人がいるわ」  あいちゃんが閲覧室の入り口に人影を見つけた。 「人、かにゃ?」 「図書館の司書さんだみゃー」  珍しくピーチの目が大きく開き、まるで獲物を追うハンターのような目つきになった。 「ピーチちゃん、どうしたの?」  あいちゃんは心配になってピーチを見た。  すると今度はダイアンも真っ黒な目を大きく見開き、 「ガルルル」  と喉を唸らせ司書さんを威嚇しはじめた。 「ダイアン、ピーチ、二人ともどうしちゃったの?」  何が何だか分からないあいちゃんは、目を凝らして遠くの司書さんをよく見ると、 「あっ!」  驚いたことにその司書さんはなんとハツカネズミの天使さんだった。  ぼくらは一触即発の緊迫した状況のまま閲覧室の入り口に近づいたにゃ。 「チュチュー、キィーキィー」  ぼくらの姿に気づいたネズミ天使司書さんが激しく威嚇した。  はたしてぼくらは無事に閲覧室へ入ることが出来るのか!
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