ツイン

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ツイン

 ページを開いた瞬間ぼくらはあいちゃんの十年先の未来にジャンプした。 「あ、小さな教会だわ」  あいちゃんが指差した先には、田舎の古い教会の赤い屋根が見え、その上には高い塔があった。そしてその塔の天辺には金色の大きな鐘が釣り下げられていた。 「可愛い教会ね!」  あいちゃんの瞳がキラリと輝いた。 「入り口付近に人が集まってるにゃー」 「今から結婚式が始まるみたいみゃー」 「さ、早く中に入ってみようにゃ」  ぼくらはゆっくりチャペルの中に入った。 「あたしたちの姿みえてないのかなぁ?」  あいちゃんが心配そうにぼくとピーチの方を振り返った。 「大丈夫! 見えてないにゃー」 「あ、来たわよ」  ピーチが入り口付近を指差すと、純白のウエディングドレスを着た花嫁が現れた。それから花嫁は、年配の紳士に伴われ深紅のバージンロードをゆっくり歩きはじめた。 「あたしだ……」  あいちゃん、十年後の自分を見てビックリ。 「あいちゃん綺麗だにゃー」 「ほんとみゃー」  ぼくもピーチも美しい花嫁姿のあいちゃんを見て思わずため息をついた。 「ほんとにあたしなの、あ、でもわかるわ、感じるよ、やっぱりあたしだわ」 「前を見て! お婿さんがいる。なかなか男前で優しそうな人みゃー」  そう言ってピーチが微笑んだ。 「よかったにゃ!」  ぼくも笑顔であいちゃんを振り返った。 「いったい何処で出会うんだろう」  あいちゃんは花婿さんを見た瞬間とても心が懐かしさで一杯になった。 「知ってる人?」 「う、ううん。知らない人、でもなにか感じるの」  あいちゃんはそれ以上口を開こうとしなかった。 (あの人……) 「あいちゃんの魂の伴侶、ツインソウルかもしれないみゃー」 「ツインソウル……」 「もしそうだとしたら神様からのギフトだにゃー」 「そうね、生きてツインソウルに出会う確率はほとんどないわ。もし仮に出会えても既に相手が既婚者だったり、同性だったり、親兄弟だったりで、男女として結ばれる可能性はほとんどないみゃー」 「ツインソウルってそれくらい出会えないのね」  あいちゃんは衝撃的な未来をいきなり見せられ心臓が破裂しそうだった。 「あ、二人揃ったよ。そろそろだにゃ」  ぼくは頬を緩め、あいちゃんを見た。 「わ、恥ずかしい!」 「誓いのキスをするにゃ」 「ダイアン、いちいち説明しないみゃ!」  そう言ってピーチがぼくの右足を思いっきり踏んだ。 「ミギャアアア」  あまりの痛さにぼくは天井に頭をぶつけそうになるほど飛び上がった。 「キャー、恥ずかしい! キスしてる」  あいちゃんは未来の自分が未来の旦那さんからキスされているシーンを見て顔を真っ赤にした。 「ほんと幸せそう。愛のオーラ炸裂ね!」  あいちゃんとピーチが、未来のあいちゃんの、誓いのシーンにうっとりしている間、ぼくはピーチに思いっきり踏まれた右足を両手で抱え、 「痛いにゃー!」  と叫び声を上げながら会場のあちこちを跳び回っていた。 「あの人にいつ出会うんだろう」 「あいちゃんどうしても知りたい?」 「……知りたいけど……」 「けどなんにゃー」  ぼくは会場を一周して二人の会話に加わった。 「あと二十年後、あたしが二十四歳の時の今日が結婚式の日なんだよね」 「きっとあっという間よ」  ピーチがささやくように言うと、 「とっておきの楽しみだから勿体ないよね。とっておこうかなぁ」  あいちゃんは幸せそうに頬を赤らめた。 「それがいいかもにゃー」  ぼくもにっこりした。 「なにもかも知ってしまうと人生楽しくないみゃー」 「ピーチちゃんの言うとおりだわ」 「んだ、んだ、そう思うんだにゃー」  それからしばらくのあいだ、ぼくらは未来のあいちゃんの、結婚式の様子を見守った。  やがて結婚式は無事終わり二人は親兄弟や親族や友人、知人らに見守られながら、教会から外にゆっくり出た。 「二人が車に乗り込むわ」  あいちゃんが胸に手をあてて幸せそうな二人を見詰めた。 「これから新婚旅行にゃ、いいにゃー」 「ダイアン、鼻の下長くしていわないで! このドスケベ!」  ピーチの猫キックがぼくの足を直撃しそうになったので、 「にゃー!」  ぼくは素早く教会の塔の上に身を隠した。 「ダイアン、どこに隠れたみゃ。逃げ足が早いみゃー」  ぼくは塔の上からピーチの動きを警戒した。 「ダイアン、どこなの?」  あいちゃんがぼくを呼んだので、 「ここだにゃー」  ぼくは塔の上から姿を現し返事した。 「あたしたちもあそこに行きましょう」  そう言うとあいちゃんとピーチは、ぼくのいる塔の上までフワッと飛んできた。 「ここに腰掛けましょう」  あいちゃんの鶴の一声でぼくらは教会の屋根の上に腰掛けた。 「あ、車が出発するわ」 「幸せの絶頂にゃー」 「ほんとみゃー」  ぼくらは新婚夫婦が乗った車を目で追った。すると二人の車はあっというまに草原の彼方に吸い込まれるように消えていった。 「……」  あいちゃんはしばらく沈黙し、目に一杯涙を溜めた。 「あいちゃん、よかったにゃ」 「うん」  あいちゃんは胸に手を当て小さく頷いた。 「次はもっと先の未来に行くにゃ? それとも前世に行くにゃ?」 「そうね……ダイアン、もう未来はいいわ。楽しみはとっておきたいから。だから、今度は前世を見てみたいな」 「じゃ、手元の本の目次で行きたい所を選ぶにゃ」 「うん」  あいちゃんは頷き、目次を指先でたどった。 「あっ!」  あいちゃんの指が止まった。 「あたし古代のエジプトで過ごしたこともあるんだ」 「よし決まった! 古代エジプトの旅にレッツ・ゴーにゃ」  ぼくの掛け声に合わせてあいちゃんが古代エジプトのページを大きく開いた。
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