アトランティスの巫女

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アトランティスの巫女

「ダイアン落ち着きなさいよ!」  ピーチが呆れ顔でぼくを見た。 「大地震だよ! はよ逃げるにゃ」  チキンのぼくはビビりまくった。なにしろ大地が生き物のようにぐにゃぐにや動くんだ。 「この世界がどんなことになろうとも、ビジターのあたしたちにはなんの影響もないのよ! ダイアン忘れたみゃ?」 「あー、確かにそうだったにゃー」  ぼくは恥ずかしくて顔を真っ赤にして俯いた。 「アトランティス帝国ってほんとにあったのね」  あいちゃんは二十一世紀の日本よりも進化した未来都市に圧倒されるばかりだった。 「車が空を飛んでいる、あ、宇宙船が空母のような空の空港に出入りしてるにゃー」  その時、あいちゃんがアトランティスでの前世の記憶を思い出した。 「アトランティスは水晶をエネルギーにしていたの。そのパワーは核燃料なんて及びもしない。しかも安全だった」 「あいちゃん。ここでの記憶が蘇ったんだね」  ピーチが地震で崩壊する都市を、目を細めて見つめた。 「あたしは巫女をしていたの。神様に仕えること、地震を予言して人々の命を地震から守ること。それがあたしの使命だった」 「美しい女の人がたった一人で大勢の人を誘導しているみゃ」  ピーチが指差した方をぼくらも見た。するとそこには、大地震で逃げ惑う大勢の人々を懸命に誘導する若い巫女の姿があった。 「あたしだわ」  あいちゃんは悲しげな顔でアトランスの巫女だった自分の姿に見入った。 「あいちゃん偉いにゃー」 「この地震はアトランティスを沈めた巨大地震だったの。あたしは何年もまえからこの日のことを予言して新天地をさがすよう政府や国民にメッセージを送り続けていた。でも帝国の人々は誰一人としてあたしの予言を信じてくれなかった……」 「自分達のテクノロジーを過信していたのね」 「ピーチちゃん、そうなの。彼らは驕り高ぶっていた。テクノロジーを過信し物質に魂を奪われていたわ。彼らは神々の逆鱗にふれたのよ」 「でも大多数の一般市民も巻き添えにすることはなかっただろうににゃ」 「帝国の一員として民衆にもその責任を科せられたのよ。アトランティス帝国の人々はお互いの心を、言葉を交わすことなく読むことが出来る能力があったの」 「個人々が集合意識と繋がっていたんだにゃ」 「そうなのダイアン。だからあたしのメッセージは一人一人に届いたけど、その一人一人があたしの予言をあざ笑った。勿論聞き入れてくれた人もいたけど少数派だったわ」 「そういう結論を帝国の大多数がだしたのね」  危険を顧みず、逃げ惑う人々を死に物狂いで安全なところに誘導する若き巫女の姿にぼくらは涙した。 「もうじきあたしは崩壊する高層ビルの瓦礫に押しつぶされて死ぬわ」  ぼくらは悲しくて、もうこれ以上巫女の姿を目で追うことは出来なかった。激しい地震で大津波が都市を一瞬にして呑み込み、幾筋もの地割れが逃げ惑う人々を情け容赦なく吸い込んだ。乳飲み子を抱きかかえた母親、小さな子供の手をひく親たち、大人も子供も、善人も悪人も関係なかった。天は情け容赦なく彼らの命を奪った。 「あっ! あいちゃん早く逃げるにゃ!」  その時、アトランティスの巫女に崩壊する高層ビルの瓦礫が襲いかかった。 「死んだわ、魂が肉体から抜け出ている。あたしはすぐに光に包まれて魂の源に帰っていった」  あいちゃんは本をゆっくり閉じた。 「大変な人生だったにゃ……」  ぼくはあいちゃんのアトランティス時代の巫女としての壮絶な人生に言葉を失った。 「旅を続けるみゃ?」  ピーチがあいちゃんの手にピンクの肉球をそっと添えた。 「うん」  あいちゃんは微笑んだ。 「今度は少し穏やかな人生のページをめくろうにゃ」 「そうね! ダイアン、あなたの言うとおりだわ」  そう言ってあいちゃんはぼくの額に軽くキスをしてくれた。 「ゴロゴロゴロ♪」  ぼくはご機嫌になった。あいちゃんのこういう優しさが好きなんだにゃ。 「今度はどの時代のあたしに会いに行こうかなぁ」  あいちゃんは本の目次をしばらく指でたどった。 「あ! 此処、いい感じだわ!」  あいちゃんの顔がパッと明るくなる。 「決まったにゃー」 「こんどはどの時代みゃ?」 「開けてのお楽しみ。フフ、じゃ開くわよ」  あいちゃんの掛け声でぼくらは次なる時代にジャンプした。
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