act.1

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白い天井、白い壁、白いシーツ。 床や、ベッドの転落防止用の柵まで全てが白い。 目が覚めたら白に囲まれていた。 私を取り囲む全ての物が白くて、少し目がチカチカする。 ここはどこ? 私は何故こんな所にいるの? 「笹野さん、朝ですよー」 仕切りに使われている白いカーテンを開けながら、水色の服を着た女性が声をかけてきた。 漸く白以外の色を認識し、少しだけ安堵する。 「朝ご飯はここで食べる?それとも食堂に行く?」 結城愛美(ゆうきまなみ)と書かれた名札をぶら下げた彼女は、その名の通り愛くるしい笑顔で話しかけてくる。 「ここで食べます」 私は体を起こし、一言そう返した。 「じゃあ、すぐにご飯持ってくるからね」 結城さんは言ってすぐに部屋から出て行った。 ふぅ…と短く息を吐き、開けられたカーテンの向こう側を見る。 目の前には、通路を隔てて私が使っているのと同じベッドが2つ置かれている。 視線を左に移せば、やはり同じベッドが1つ。 私がいるのは、どうやら入院病棟の4人部屋らしい。 とは言え、私以外に入院患者はいない。 お陰で他者に気を遣う必要もなく、伸び伸びと出来る。 しかし、私はどうして入院などしているのかしら? 体のどこを調べても特に目立った怪我や、痛みなどはない。 と言うことは、何かしらの病気で入院していると言うことかしら? その割に、点滴などを打たれているわけでもなく、手術を受けたような形跡もない。 ベッド脇にあるゴミ箱を覗き込んでも、捨ててあるのはティッシュや紙くずだけ。 薬を処方されている様子もなかった。 病気でも怪我でもない。 なのに入院させられていて、その理由が思い出せない… もしかして記憶喪失と言うものかしら? 「……そんなわけないわね」 思い至ったその考えに、自嘲する。 私は笹野やよい、今年で67歳になる。 22歳で結婚し、62歳の時に夫に先立たれて以降、一人暮らしをしていた。 子どもは娘が2人と息子が1人。 娘は2人とも遠方に嫁ぎ、滅多に顔を見せないけれど、頻繁に電話してきては私の身を案じてくれる。 息子は近くにいるけれど、結婚してから嫁の言いなりで、殆ど疎遠になっている。 孫の顔すらろくに見せに来ない。 この分だと、同居なんてする気もないのだろうけど、その方が良い。 私を厄介者としか思っていないあの嫁と一緒に暮らすなんて、無理に決まっているもの。 それに私はまだ元気で、子どもの手を借りる必要はない。 もし介護が必要になっても、その時は施設にでも入ろうと思っている。 夫が残してくれた財産と年金で、お金には困っていない。 嫁は、この財産を欲しがっているようだけど、残してなんてあげないわ。 悠々自適な生活を送って、残ったお金は娘達にあげるつもり。 その為に、娘名義の口座に少しずつお金を移している。
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