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しかし、軽い相槌を打ちつつ改めて周りを見たものの、正直あまりピンと来ない。目の前の坂本さんのように、勤務中の女性がスーツなり制服なりを着てくれていれば、当然見分けがつくのだが。
「ええ。業種にもよるから一概には言えませんが、だいたいはぱっと見でわかります」
「外見だけでそこまで見抜くなんて、男性にはとてもできる芸当じゃないね」
女性という生き物は、つくづく他人のことをよく見ているものだ。この間も、同じ階に住む広瀬さんの奥さんが、外出するうちの妻について何やら言っていた気がする。
「あっでも。仕事中じゃないってのはすぐ見抜けますけど、専業主婦っていうのは若干の妄想が混ざってますよ」
「なるほど。ところで、坂本さんは専業主婦になりたかったの?」
そう尋ねれば、彼女は「もちろんですよ!」と力強く答えた後、しまった、という様子で口に手を当てた。
「これ、上司の前でする話じゃありませんね。寝言ということにしてください。私、仕事大好きですから!」
「あはは、大丈夫だよ。俺だって本音を言えば、一生働かなくていいなら働きたくない」
答えたところで、目の前にパスタセットのサラダとスープが提供された。
野菜サラダの上に乗った、妙な豆が気になる。豆類は苦手だ。しかし、坂本さんの前で避けるのもやや恥ずかしい。迷った末、一旦スープのカップに手をかけた。
「課長も!? そんなに優秀なのに意外です!」
坂本さんはトマトにフォークを刺しつつ、くりんとした目を更に丸くした。
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