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今日は本当に真夏日で、日が傾いてきてもまだ汗ばむくらいだ。いつも通り教室の帰りに寄ったスーパーの効き過ぎる冷房が、今は天国に感じる。
夕飯は久しぶりに、カレーライスに決定。お手軽な料理という認識だったのに、涼と結婚してからは滅多に作らなくなった。
涼はお芋も人参も渋い顔をする。シーフードなんて入れようもんなら、ひとくちも口にしてくれない。でもそうすると、具が肉と玉ねぎだけになってしまう。彼の偏食が難易度を上げるから、ついついメニューから除外しがちなのだ。
でも、今日みたいに暑い日は、体を疲労させる上に、食欲も減退させる。そんな時こそ刺激物で食欲増進。わたしもここ最近食が細くなっているからちょうどいい。
結局悩んだ末、ナスとアスパラ、トマトを買い物カゴに入れた。色鮮やかに夏カレーだ。
家に帰ってさっそく調理開始。ジャガイモを涼にバレないよう完全に溶けるまで煮込む。普通はお皿の上でもいちばんの存在感を放つはずのお芋が、もはや隠し味。なんだか可笑しい。
──わたしはあと何回、涼のためにこうして食事を作ることができるのだろう。
離婚を決めたのに、ふとした瞬間に揺れる心。それを紛らわすかのように、リビングのテレビに視線を投げた。
七十インチある巨大な液晶では、かなり幼い頃に流行ったドラマの再放送が流れている。四人の男女がややこしく絡まった恋模様。内容はともかく、主題歌が好きで観てしまう。
あの日あの時、涼と会わなかったら……。
わたし達は、他人のままがよかったのかしら。今となってはもうわからない。
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