(1)

1/7
前へ
/22ページ
次へ

(1)

 重たい目蓋をゆっくりと持ち上げれば、見慣れた仄暗い天井が目に入った。隣からはすうすうと規則正しい、夫の寝息。彼を起こさないよう細心の注意を払い、わたしはベッドからするりと抜け出した。  バスルームで顔を洗い、今度は寝室の隣の部屋へと向かう。グレーのカーテンの向こうでは、まだ白味がかった空の袂が、今まさに赤く燃え上がろうとしていた。  起きたらまずバルコニーの鉢植え達に水をやるのが、毎朝の日課。ジニアはもうこの時期、小さな花々を色鮮やかに開かせる。でも、アサガオ達はもう少しだけ先かしら。  見下ろした道路には、まだこんな時間なのに駅へと足早に向かうサラリーマン。犬の散歩をする若者や、ジョギングをする年配の姿も見受けられる。  梅雨はもう明けたのだろうか。思いきり吸い込んだ澄んだ空気に、雨の匂いは微塵も感じられない。伸ばしかけの前髪をなびかせる、若々しく青い風。  柵の上に止まった早起きな雀が、まるでおはようの挨拶のようにチュンチュンと可愛らしく囀る。  いつも通りの朝。昨日と同じ朝。けれど、眩く神々しい朝。朝がこんなに美しい生命力に溢れているなんて、今まで知らなかった。  ああ、に会える今日という日は、見るもの全てが眩しくて愛おしい。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加