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ジュリアンの後悔
精霊の黒馬は狂ったように中庭を暴れ回る。幻狼達は協力して黒馬を取り囲み、落ち着かせようと試みるが依然錯乱していた。
「……雷の精霊の使い馬ーー、とても心が繊細な精霊だ、無理矢理ケージに閉じ込められたからショックで発狂してるんだろう」
ベンジーは呟いた。
シャルロットは心苦しそうに暴れ馬を見つめた。
自分に向かってくるオオカミ達に余計に怯えているようだった。
ジュリアンは震える声で言った。
「あれは、あたしが捕まえて来た精霊よ……」
「な!……」
ベンジャミンは目を見張り、ぐっと唇を噛むとジュリアンの頬を打った。
シャルロットは驚き、二人の間に割って入る。騎士達も続いた。
「お前が密猟者の一味か!」
「べ、ベンジー!女の子に暴力は良くないわ」
シャルロットは叫ぶ。
「~~精霊達が受けた苦痛はこんなもんじゃないさ!」
憎しみが篭った目で刺すように睨まれて、ジュリアンは腰を抜かす。
自分はただ、金のために精霊を捕まえてきたーー、悪気は全くなかった。
ベンジャミンは踵を返して、暴れ馬に真っ直ぐ向かって走り出した。
「ベンジー!」
シャルロットが絶叫するように叫ぶが、彼は構わず暴れ馬の身体に抱き着いた。
暴れ馬はベンジャミンを振り落とそうとするが、彼はしっかりと首にしがみつく。そして外套のポケットから太い針のついた注射器を取り出して暴れ馬の首にぶっ刺した。
「大丈夫だ、大丈夫だ、もう怖い奴らは居ない、お前は自由だ」
馬の背に跨って抱きしめながら、優しい声で語りかけている。
暴れ馬は壁に、柱にぶつかり、竜巻をいくつも作り辺りをめちゃくちゃにした。
スイーツアートコンテストの会場も突風が吹いてケーキはなぎ倒されて台無しだ……。
「よしよし」
怪我を負いながらも、ベンジーは暴れ馬にしがみつく。
やがて暴れ馬は力尽きたように芝生の上に倒れ込んだまま、動かなくなった……。
「大丈夫?ベンジー!」
シャルロットは駆け寄る。
ベンジーは悲しそうな目で暴れ馬の腹を撫でた。
「その子は大丈夫なの?」
「……」
精霊の黒馬の身体は光を放ち、キラキラ光る粒が混じった灰に変わり風に飛ばされて消えた。
シャルロットやジュリアンは愕然とした。
「安楽死させてあげた。このままでは自我を完全に失い魔物になるだけだった……」
「え……?」
精霊は死なない、死という言葉より無に帰すという表現が正しい。
「ご、ごめんなさい……」
ジュリアンは泣きながら謝る。
自分が捕まえなければ、生きていられたはずなのに……。
後悔しても、消えた精霊の命は戻らない。
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