白雪の子幻狼

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白雪の子幻狼

ここは新大陸エスター国にある大学都市。 この広い街全部がアカデミーが所有する区域だと言うから驚きだ。 シャルロットとグレース、3匹の幻狼たちがここへ引っ越し、早いもので3ヶ月が経過していた。 季節はすっかり秋、それも通り越して冬が近付いていた。 シャルロット達が生活しているのは大学都市内でも一等地にある邸宅。 ここはエスター国の大統領が直々に貸してくれた邸宅で、とても華やかな豪邸だ。 キングサイズの大きベッドでシャルロットはグレース皇子に寄り添いすやすやと寝息を立てて眠っていた。 夜も深まった頃ーーベッドの下で伏せ寝していたオオカミ姿のグレイは静かに立ち上がり、何も言わずに寝室を抜け出た。 「ぐっ、グレイ~」 その後ろを慌てた様子のフクシアが追い掛ける。 「……ん……?グレイ?……」 シャルロットはふと眼を覚ます。 足元でオオカミ姿のクロウが鼻提灯を膨らませ、ムニャムニャ寝言を言いながら丸まって眠っていた。 「シャルロット、どうした?」 グレース皇子も一緒に眼を覚ます。 「いいえ…。ごめんなさい、起こしてしまったかしら……」 シャルロットはベッドから降りると、寝室を出た。 真っ暗な廊下を進むと、突然 左手にある扉が開いたままの一室が白く発光した。 「???」 部屋を覗くと、居間の窓辺で月の光を浴びたグレイが苦しそうな顔で震えていた。 フクシアはグレイに付き添い、不安げな顔をしている。 「グレイっ……どうしたの?」 シャルロットはびっくりして思わず声を上げた、それから真っ直ぐに彼らの元へ駆け付ける。 グレイから放たれる白い光は更に強まり、やがて白い光の玉が弾けるように飛び出した。 眩しさに眼を細めていたシャルロットーーやがて光が引くと、そこには子オオカミが立っていた。 「!、ま、まぁ!幻狼の赤ちゃんだわ」 真っ白な毛並みに円らな黄金の瞳を持つカワイイ子幻狼だった。 グレイは愛おしそうに我が子を見つめて、身体をグルーミングしていた。 フクシアは床に飛び跳ねて大喜びしている。 「はじめまして、グレイの赤ちゃん」 「オレが父ちゃんだぜー!我が子よー!」 「ねえ、赤ちゃんの名前は決めてあるの?」 「……雪のように白いから、スノウにしよう。」 グレイは我が子の顔をペロリと舐めてあげながら、淡々と言った。 「スノウか~!よろしくだぜ、スノウ~うはは!」 祝福ムード、嬉しくって深夜だと言うことも忘れてはしゃぎ出すフクシアとシャルロットだったが、だんだんとグレイの顔が曇って行くのに気付いた。 グレイが見つめる子オオカミは元気が無く、フラフラしており脚元が覚束ない。 やがてパッタリとグレイにもたれかかるように倒れてしまった。 「スノウ……?」 グレイは眼を見開いている。 「え?どっ……どうしちゃったの?」 子幻狼のスノウは眼を開いているが、具合がとても悪そうだ。プルプルと身震いしている。 2匹の幻狼は心配そうに弱ってる我が子の顔を覗き込んだ。 「グレイ?子が産まれたのかーー」 遅れて部屋にやって来たグレース皇子の声に、シャルロットは振り向いた。 「ええ。でも、なんだか様子がおかしいの……」 「……」 グレース皇子は子オオカミの身体を優しく撫でて考え込んだ。 「オレの赤ちゃん、どうしちゃったの?病気なの?」 「わからん。東の魔女ルシアに診てもらうにも、ここからじゃ遠いからな……。転移魔法するにもこの様子じゃ体がもたないだろう」 「……スノウ……」 「……俺が通ってるアカデミーに精霊に詳しい奴がいる。精霊博士って呼ばれているんだ。そいつに診てもらおうか」 「できるなら、お願いしてもいいかしら?心配だもの」 不安でいっぱいな様子のグレイの頭を、シャルロットは落ち着かせるように微笑しながら撫でてあげる。 「きっと大丈夫よ、グレイ」 「シャルロット……、うん……」 グレイはシャルロットの優しげな瞳を見つめて、コクリと頷いた。
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