テスト

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テスト

 女の子と向かい合って、目と目を合わせる。 「私の事、どう思ってるの?」 「え、その、大事だと……」  崇範はしどろもどろだ。  対して彼女は視線を外さず、グイグイと距離を詰めて行く。 「本当に?」  崇範は逃げ腰になるのをどうにか堪え、視線だけでどこかに助けはないかと探し、諦め、根性を据えて彼女の目を見、頷いた。 「本当に」  そのままにらめっこの如くじいーっと見つめ合ったところで、声がかかった。 「はい、いいですよ」  途端に彼女は笑顔を浮かべて離れ、崇範は肩の力を抜いた。  審査員席の監督達は手元の紙に何か書き込みながら、概ねにこにこしていた。 「何だ。心配してるとか聞いてたからどんなものかと思ってたんだけど、いけるね」 「はあ。ありがとうございます」  答えながら、冷や汗が止まらない。  今日はドラマのテストの日で、渡されたプリント1枚に書かれた台本に沿って演じるように言われたのだ。  幼馴染の女の子に詰め寄られて、焦り、狼狽え、誤魔化すというシーンだったので、崇範としては素に近い。部屋に入ってすぐに渡されたこの台本の内容は、ラッキーだったとしか言いようがない。 「アクションは大丈夫だし、いいよね」 「そうですね」  決まってしまう雰囲気に、崇範が罪悪感にさいなまれて白状した。 「あのぅ、今のは狼狽える所だったからたまたま良かったのかも……」  先程向かい合っていた、幼馴染役の女優が吹き出す。 「そんな申告する人、初めて見たわ」 「ええっと、すみません」  小さくなる崇範に、監督とプロデューサーも笑いを浮かべる。 「最初は特に、無口で不愛想だから。だんだん慣れて行くから、その間に深海君も慣れて行って」  そんな事ができるのかと不安がよぎるが、 「はい。努力します」 と返事をした。 「じゃあ、これでOKと。  スケジュールとかはまた事務所に連絡するから、よろしくね」 「はい!よろしくお願いします!」  こうして、テストは終了した。 (東風さんに、連絡しよう)  崇範は、美雪の顔を思い浮かべた。  その頃美雪は、自室をうろうろと歩き回ったり立ったり座ったりとしていたが、留美に 「落ち着きなさい。あなたがうろうろしてても仕方ないでしょう?」 と留美に呆れられた。 「そうだけど……」 「テストの結果はいつわかるのかしら。  ん?そう言えばオーディションじゃないの?」 「ちゃんと演技できそうかのテストなんだって。深海君が自信がないって言うし、演技の経験がないから」 「練習してたんでしょ?社長さんとかと」 「うん……」 「アスクルーとかは大丈夫じゃない」 「あれ、セリフは女優さんが吹き込んでるし、深海君はマスクで顔が見えないから表情を作る事もないから」  美雪はどんよりとした表情で答えた。 「そんなに気になるなら、そこに行くか?送ってやるぞ?」  明彦が言うが、美雪は警戒心丸出しで明彦を見ており、明彦は苦笑した。 「この前は悪かったよ。ごめん。浜坂には謝って断っておいたから。もうあんなことはしないから」 「絶対に?」 「絶対」  神妙な明彦の様子に、美雪は許してやる事にした。  と、電話が鳴り出す。 「わ!深海君!」 「で、出て見なさいよ、美雪」 「う、うん。もしもし?」  恐る恐る電話に出た美雪は、 「え、合格?やったーっ!おめでとう、深海君!」 と電話口で大騒ぎし始め、明彦が、 (不意打ちで引き合わせはしないけど、まだ賛成するとは言ってない) と思っていた事は、知らないでいた。
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