囲み取材

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囲み取材

 崇範は新見に車で送ってもらいながら、今後の事について話していた。 「まずは監督も言う通り、慣れる事だな」 「はい」 「東風さんは、どうしたもんかなあ」  新見は唸った。 「新人ですでに恋人がいるってのは、売れる気がしないんだがなあ」 「でも、隠すとかは不誠実ですよ」 「そりゃそうだけどな。一応、人気商売だぞ?  まあ、ネットのアレで、東風さんの事も込みで応援してくれる人も多いのは多いからな。まあ、よくある『いいお付き合いをさせていただいています』って言っとけばいいかなあ」 「はい」 「うちもあれだな。広報的な仕事もできるマネージャーを入れるか」  新見が言うと、途端に崇範は心配そうになる。 「僕のためだったら、勿体ないですよ。どうせそんなに続くとは思えませんから、この騒ぎが」 「……いい加減、もう少しは自信を持てよ……」  新見が呆れた時、車はアパートの近くに着いた。 「引っ越しも考えとけよ。あと、先生に言われた進路」 「はい。  ありがとうございました。お休みなさい」 「ん、お疲れさん」  崇範が新見に頭を下げ、アパートに向かって歩き出す。  そして角を曲がって、アパートの前の一方通行の道に入ったら、いきなりライトが正面から浴びせられて目が眩んだ。 「え!?何!?」 「お帰りなさい、深海君」 「ちょっとだけいいですか」  取材の人達だった。  と分かった時には、囲まれて逃げ場がなかった。 「崇範!?」  背後で事態を察した新見が焦った声を上げる。 「お父様を殺害した主犯の少年Aを含む4人に脅されたという事ですが、それについて何か仰りたい事はありますか」  質問にどう答えるか、全員が耳を凝らし、一挙手一投足に注目している。 「今、警察が調べていますし、僕からは特には。  ああ、1つだけ。今後はもう来ないで欲しいです」 「じゃあ、少年Dが少年Eを殺害した事についてはどう思われますか」 「それは……僕が何か言う立場にはないと思いますので……」 「では、東風重工の社長のお嬢さんとのお付き合いについては」  ググッと、包囲するマイクが寄った。  美雪はおめでとうを直に言いたくて崇範の家に行こうとし、暗いので明彦に車で送ってもらう事になった。 「良かったぁ。ふふ」  膝の上には、途中で買ったケーキの箱が乗っている。  と、やけに車がたくさんアパートの周りにとまっている事に気付いた。カメラやマイクを持った人もたくさんいるので、報道陣だとわかる。 「どうかしたのかしら。深海君がテストに合格したの、もう知ってるの?」 「それはないだろ。本の事とか、あの事件の犯人グループのDがEを殺した事とかじゃないか?」  それを聞いて、美雪のケーキの箱を持つ手にキュッと力が入った。 「深海君に、そのことの何を訊きたいのかしら」 「あ、あれ、新見さんの車じゃないか」 「あ」  一方通行に入る手前で止まり、崇範が降りて来る。 「ど、どうしよう、お兄ちゃん。今帰ったらマスコミに囲まれるって教えた方がいい?」 「え、でも、もう見付かったんじゃ――」  兄妹が狼狽しているうちに、崇範はあっさりと報道陣に囲まれてしまった。 「ああ……」  2人はなすすべもなく、取材を見るしか無かった。  事件の事などを訊かれ、それに落ち着いて崇範が答えて行く。  そして質問は美雪の事になり、美雪の心臓が跳ね上がった。 「父の事や母の事は、東風さんに責任の無い事です。それに、東風重工さんのした事に違法性は無かったと聞いていますので」 「東風さんのお嬢さんは、深海君にとってどういう方でしょうか」  崇範はついさっき新見と車の中で話していた事を思い出した。思い出したが、それは違うと思った。 「好きです。とても、大切な人です。クラスが代わっても、進路が違っても、変わりません。僕は東風さんが好きです」  囲んでいる報道陣から、 「おお……」 と声が漏れた。  その後ろで入り込もうと頑張っていた新見が見えたが、頭を抱えている。  が、意外と報道陣の皆は笑顔で、新見も苦笑を浮かべるのみだ。 (あれ?怒られないみたい?)  怒られるなら怒られるでいい、と思っていたが、どうもいいらしい。 「あ。勿論、まだ高校生ですから、高校生らしい付き合い方ですよ?」  慌てて付け加える。 「例えば?」 「お弁当を一緒に食べてます!それから、時々図書館にも一緒に行きました。あと、もうすぐ春休みなので、どこかに行きたいです」 「旅行とか?」  1人が訊く。 「プラネタリウムとか、東風さんは動物が好きだから動物園とか」  崇範は赤面しながら答え、皆は心の中で、 (スキャンダルには程遠いな) と思っていた。  美雪は 「嬉しい!お弁当作らなくちゃ!」 と張り切る。  そして明彦は、 「お前ら、小学生か」 と呆れ、 (仕方ないなあ、もう) と、苦笑を浮かべた。
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