登場人物紹介

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 ジェイミーの部屋のベッドで、ロベルトは気持ちよさそうに眠っている。その顔を、同じベッドに入ったジェイミーはじっと見つめる。  この部屋でロベルトに抱かれたのは、今回を含めて三回目だ。あっという間にこの部屋に馴染んでしまったような気がする。  三回とも部屋に泊まっているので、そのせいかもしれない。  ジェイミーの視線に気づいたわけではないだろうが、ロベルトがゆっくりと目を開く。褐色の瞳が和んだ光をたたえ、見上げてきた。 「いいねー。目を開くと、そこに金髪のきれいな天使が微笑んでいるなんて」 「寝ぼけてるのか。誰がいつ笑った」  ロベルトの頭を叩いてやろうとしたが、気が変わってくすんだ金髪をそっと指で梳く。  気持ちよさそうにロベルトが笑い、片腕が伸ばされて頭を引き寄せられる。  情熱的なキスを交わしながら、ジェイミーはロベルトの胸元にてのひらを這わせる。さきほどまで、自分が唇と舌を這わせた体だ。  目もくらむような独占欲に突き動かされ、唇を離したジェイミーは、ロベルトの胸元に再びキスを落とし、合間にペロッ、ペロッと滑らかな肌を舌で舐め上げる。  ロベルトが深い吐息を洩らしてから、小さく笑い声を洩らした。 「くすぐったいよ、ジェイミー」 「うるさい。わたしは気持ちいいんだ」  ロベルトに触れる行為が――。  しばらくそうやってロベルトの体を堪能していたが、ふと時計を見て現実に戻る。  朝から戯れられるのは、この時間が限度のようだった。ジェイミーは当然講義があるし、ロベルトも珍しく、仕事絡みで用があるらしく、朝から出かけなければならないのだという。  身を起こすと、髪を掻き上げたロベルトも時計に目を向けて声を洩らす。 「ああ、もうこんな時間か……。幸せな時間って、あっという間に終わるよね」 「……そうだな」  あっさりと応じたジェイミーに、ロベルトが目を丸くする。ジェイミーも自分の失言に気づき、いまさら誤魔化せる術もないので、何事もなかった顔をしてシャツを羽織る。  ロベルトがジェイミーに求めているのは、どんなに甘い時間を過ごしたあとでも、すぐにクールさを取り戻し、甘い台詞にも冷ややかに応じる人物像だ。  決して、共に甘い時間を惜しむ恋人像ではない。  ジェイミーも頭ではわかっているが、切り替えがうまくできないときがある。  ロベルトもこのことについては何も言わず、ベッドの反対側に回ってスラックスを穿き始める。ジェイミーの部屋にやってくるときは、ロベルトは今のところスーツを着用し続けている。 「これからだと、着替えを済ませる時間がないなー。ワイシャツぐらい替えたかったんだけど」  ロベルトの洩らした独り言を聞き、ジェイミーはクローゼットの中から買って袋に入ったままのワイシャツの取り出し、ロベルトに投げ渡す。  受け取ったロベルトが、驚いたようにこちらを見る。 「……これ、ジェイミーの?」 「わたしのサイズが、お前に入るわけないだろ。必要かもしれないと思って、買っておいた」  礼を言ったロベルトが袋から取り出したワイシャツを羽織り始める。その姿を見てジェイミーは、そっと目を細める。  ブルーのワイシャツを着たロベルトは立派にビジネスマンに見え、実に似合っている。  思わず言っていた。 「きちんとしたワイシャツ姿も似合っているんだから、いつまでも派手な柄シャツを着てフラフラするな」 「派手な服装は、俺のアイデンティティーなんだよ」 「ものは言いようだな」  軽い笑い声を上げたロベルトだが、すぐに苦笑に近い表情となってジェイミーを見た。 「なんだ?」 「意外だなと思って」  ロベルトが何を言おうとしているのか、ジェイミーにはわからなかった。  次にロベルトに言われた言葉に、ジェイミーは冷たい手で心臓を鷲掴まれたような気がした。 「ジェイミーが世話好きなんて、知らなかった。俺のことなんて、ベッドの中で楽しんだあとは、ほったらかしだと思ってたからね」  冗談めかしてはいるが、ロベルトの言葉には暗に、自分たちの関係は快楽だけで繋がっていたいのだと言っているようだった。  実際ジェイミーも、そのつもりだった。  多分、という前置きが必要ないぐらい、確かな事実がジェイミーの中にある。  ロベルトと快楽以外で繋がりたいと思うほどに、この陽気で快楽主義者なイタリア男に自分が魅かれているのだ。  自分自身に苦笑を洩らしたい心境となりながら、ジェイミーはクールに告げた。 「お前に、人を見る目がなかったんだな」  一瞬真顔となったロベルトが、すぐに肩をすくめて笑う。 「きれいでエッチな人を見分ける目はあると思ってるんだけどね」  すかさずロベルトにクッションを投げつけるが、あっさりと受け止められた。 「じゃあ、帰るよ。――また、連絡するから」 「ああ」  おざなりに手を上げて、見送りもしない。これがいつもの二人の流儀だ。  部屋に一人となったジェイミーは、ベッドに仰向けてとなって転がる。  ロベルトはもう、連絡してこないかもしれない。そうなったら、おそらく自分は追いかけてしまうだろう。  ジェイミーは誰に対してなのか、素直に負けを認めていた。  ロベルトを愛してしまったのだと。
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