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「すみません、作っていただいて」
「僕達は恋人同士なんだから遠慮することはないよ」
優しい私の恋人、幸せな朝。
でも、いつもと何かが違う。
その違和感が何なのかわからない。
朝食を食べ終わると、智さんは仕事へ行ってしまい、私は一人になった。
兎に角家の中を把握しておこうと、部屋を見て回る。
まず今いるリビング。
そしてお風呂の横がお手洗いだった。
残りは智さんの部屋と思われるところだけだが、人の部屋に勝手に入ることに少し躊躇ってしまう。
少しでも思い出せれば智さんに心配をかけなくて済むと思い、思い切って中へと入る。
部屋にはベッドにタンス、本棚とシンプル。
特に思い出すことはなかったため部屋を出ようとしたとき、写真立てが目に入り手に取る。
私の部屋にあったのと同じ写真。
早く思い出せたらいいのになと心で思いながら写真立てを戻そうとしたとき、写真立ては床に落ちてしまった。
後ろの蓋が外れ中の写真がでてしまったので慌てて拾うと、写真が二枚あることに気づく。
どうやら重なっていたようだ。
なんの写真だろうかと手に取ったとき、私は一気に血の気が引いた。
何故ならその写真はもう一枚と同じものなのに、私の顔が黒く塗り潰されていたから。
兎に角元に戻しておいて、何事もなかったように仕事から帰ってきた智さんを迎える。
「お疲れ様です。朝は作っていただいたので、夕食は作らせてもらいました」
「ありがとう。あれ? 顔色悪いけど大丈夫?」
顔を覗きこまれ体が強張るが、なんでもないですよと言いリビングへ行く。
翌朝。
今日は朝食も私が作り智さんが仕事へ行くのを見送ると、再び智さんの部屋へと入った。
あの写真は何だったのか、私が何なのかわかるかもしれないと、部屋の中に何かないかと探していると、小説が並べられている本棚に一冊だけアルバムが紛れていた。
手に取り開いてみると、そこには智と誰かが写った写真。
誰かというのはきっと私なんだろう。
なぜ曖昧なのかというと、どの写真も顔が黒く塗り潰されていたからだ。
「やっぱり見たんだね」
突然の耳元で聞こえた声に驚きアルバムを落とす。
「智、さん……仕事に行ったはずじゃ」
「昨日から様子がおかしかったから、記憶が戻ったのかなって」
顔は笑っているのに、智さんが怖くて後ずさる。
「事故に見せかるつもりだったのに。まぁ、次はしっかり殺してあげるからさ」
「どうして……」
どこからか取り出したナイフで私は刺され、マンションの屋上から落とされた。
でも何故か、この感覚には覚えがある。
そう、私は転生していたんだ──。
《完》
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