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光と影は一緒になれるけど
初めて眩しいと思ったのは、陽の光ではなくある女性の笑顔だった。
明るく笑う彼女の笑顔は眩しくて、いつも離れた場所から眺めていることしかできない。
こんなに明るい人に近づいたら自分は消えてしまいそうで、こうしてこの家の前を通ると立ち止まり瞳に映すのだ。
大きな家の広い庭で犬と遊ぶ、名前も知らない彼女の姿を。
でも、それだけで幸せなんだ。
ただその笑顔が見られるだけで。
そして翌日もその家の前で立ち止まると、一瞬だったが目が合い、鼓動が跳ね上がる。
でも彼女は直ぐに犬へと視線を戻すと、何故か家の中へ犬と一緒に入ってしまう。
「仕方ないよね。光は僕の存在に気づかないんだから」
彼女が光なら自分は影。
光が眩しくて、影の存在には気づけないんだ。
そしてその次の日も、また次の日も、彼女という光を見つけてから毎日その家に訪れた。
でもそんなある日、彼女が庭に出てこなくなった。
それから数日後、彼女は庭で泣いていた。
いつも側にいた犬の姿はなく、どうやら亡くなってしまったようだ。
彼女の光は1つ消えてしまったようだが、自分にはまだ光がある。
そんなことを考えていると、また彼女と目が合った。
だが、彼女は涙を流しながら家へと駆け込んでしまう。
「泣いてる姿なんて、見られたくないよね。僕も、キミが泣いてる姿は見たくないよ」
その次の日、初めて彼女に声をかけることを決意した。
何時も家で一人だった彼女の大切な光が消えてしまったのだ。
きっと喜んでくれるだろうと、プレゼントを手に彼女に声をかけた。
「キミに渡したいものがあるんだ」
初めて踏み込む庭。
そして、間近で見る彼女の姿。
背に隠していた贈り物を彼女の前に差し出すと、彼女は喜んでくれた。
「泣くほど嬉しいんだね。よかった」
ようやく彼女に自分の存在を知ってもらえたことに笑みを浮かべる。
でも彼女は、そのまま泣き崩れてしまう。
「いやぁぁああッ!!」
「ほら立って。そんなところに座ってたら洋服が汚れちゃうよ」
「イヤッ、近寄らないで……」
何故か嫌がる彼女に首を傾げる。
すると彼女は、プレゼントを奪うとこちらを睨んだ。
「この、人殺しッ!!」
そう叫ぶ彼女には、もう光はなかった。
光がなくなって、自分と同じになったのだ。
でも、彼女は影じゃない。
何故なら、彼女は影よりも暗い闇になってしまったのだから。
「はぁ……。やっぱり彼女も違った。次の光を見つけなきゃ」
折角消してあげた彼女の両親。
でも、彼女は影にはならなかった。
それどころか眩しい光をまた輝かせたのだ。
でも、最後の光の犬が死んでしまった。
それでも彼女は光にも影にもならなかった。
だから、犬のお墓を掘り起こしてプレゼントしたのだが、どうやらお気に召さなかったらしく闇に染まってしまった。
だから、彼女を両親と犬と同じ場所に連れてきてあげたんだ。
暗くて冷たい土の下に。
「ごめんね。光と影は一緒になれるけど、闇とは一緒になれないんだ」
そしてまた一から探す。
光輝く存在を。
そして今度こそ、自分と同じ影にする。
《完》
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