お日柄の良い、その日まで。

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 都内某所の、こじんまりとした結婚式場。  緑豊かな庭に面した打ち合わせスペースで、おれは婚約者に、とある画像を見せられていた。 「すごい迷ったんだけどー。 思いきってこの、”黒鳥(こくちょう)(いざな)い”ってやつで」  キラキラした目で言うミク。  おれは思わず、向かいに座る吉村さんの顔を見た。  ついさっき初めて会ったウエディングプランナーの彼女は、軽く眼鏡のブリッジを押さえると、無言でおれを見返す。その口元には、緩い笑みが浮かんでいる。    半年後に予定している、親族だけの小規模な結婚式と披露宴。  打ち合わせ初回、今日のメインは、式で着る衣装の予約だ。  追加料金を払えば外部からドレスを持ち込むことも可能らしいが、ミクもおれも結婚式に凝るタイプではない。もらったパンフレットにあったプラン通り、衣装は提携業者からのレンタル、式場に隣接したチャペルで挙式して、披露宴でお色直しを1回、という内容で申し込んでいる。  そう、数年前に地元で演出過剰な式を挙げ、まんまと一族の笑い者になった、従兄のタカシ兄ちゃんとは違うのだ。  二児の父となった今でも、影で「アホの子」と呼ばれるタカシ兄ちゃん。  あの頃まだ元気だったばあちゃんが、披露宴会場に突如現れた火を吹くドラゴンに驚いて、隣のテーブルまで飛ばした入れ歯……。  とはいえ、女の子はやはりウエディングドレスに対する思い入れがあるだろうから、ミクにはこの打ち合わせまでに、レンタルのサイトでドレスの候補をじっくり選んできてもらった。  その結果が、これだ。  ――“黒鳥“  画面では、露出の多い黒のドレスを身にまとったモデルが、おれの感覚だと「そりゃちょっと結婚式にはセクシーすぎやしませんか?」という表情をこちらに向けている。
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